Razed In Black - Shrieks, Laments, & Anguished Cries

Shrieks Laments & Anguished Cries (Dlx)

Shrieks Laments & Anguished Cries (Dlx)

アメリカはハワイ州出身のインダストリアル・メタル系アーティストの1st。
出身地からハワイアンな装いが浮かぶが、その要素ゼロ!どころかマイナスの1990年代のインダストリアルことインダストリアル・メタルが満載のアルバム。
マリリン・マンソンっぽいゴシックなヴィジュアルをしているがその要素もゼロという面白いアーティスト。マンソンとかよりもインメタ期のフロント・ライン・アッセンブリー(以下FLA)に近い音。という訳でスラッシュ・ギターをかき鳴らしながらもトランシーなデジタル・リフも忘れない趣で、同じくFLAなインメタを魅せていたBirmingham 6に最も近いのかもしれない。
しかし、インメタ期のFLAがサイバー・デジタルとスラッシュ・メタルを融合させて映画「マトリックス」ばりのサイバーディストピアを魅せていたのと比べてこのアーティストはフィジカルな要素を前面に出している様に思われる。それはスピード・メタルならぬスピード・エレクトロニック・メタル・ボディを実践していた1990年代前半のディー・クルップスにも似ている。疾走感するエレクロニック・ボディ・ビートの上をこれまた疾走するスラッシュ・ギターにトランスするシンセ、そして吠えるディストーション・ヴォイス……。
短い紹介文になってしまったがこれで終わりたい。FLA、ディー・クルップスの中間に存在するようなアルバム。熱さとトランスが同居する傑作インメタ!お薦め。

Sielwolf - Magnum Force

Magnum Force

Magnum Force

ドイツのメタル・ノイズバンドのシングルに未発表曲を入れたEP。
所謂「インダストリアル・メタル」系の音……なんだけど、ミニストリーナイン・インチ・ネイルズ、KMFDMとは全く趣が異なる音。メンバーにフリージャズやアヴァンギャルドなバンドをやってた人がいるらしく、それがこの異形の音楽に繋がっているのかもしれない。
端的に表すと冒頭に書いた通り「メタル・ノイズ」。ノイバウテンや初期のSPKがメタルを演っているような感じ。スラッシュ・ギターを鳴らしていても全くスラッシュ・メタルバンドのそれには聴こえないのは、根本にノイズ・インダストリアルがあるからだろう。
そう聴くとブラック・メタルバンドに近いかもしれない。このジャンルはメタルとしているが、殆どノイズ・インダストリアル……それもパワー・エレクトロニクスにしか聴こえないような音源が沢山存在している。ブラック・メタルの歪み過ぎたメタル・ギター、絶叫と発狂ヴォイス……というより出てくる音の全てが歪んでノイジーな発狂音はメタルというよりは前述した通りラムレーやホワイトハウスなパワエレにしか聴こえないだろう。ジャンルは違うがSunn O)))及びメンバーのステファン・オマリーがレーベル「Editions Mego」の長ことPeter Rehbergと共にやっているKTLなんかにも近い印象を受ける。どちらもメタルを基調としながらも、インダストリアルやアンビエントといったジャンルを取り込み、明らかに「BURRN!」を読んでそうなメタルファンから唾棄されそう……または理解されなそうな音に仕上がっている(現にSunn O)))は同誌のクロスレビューで4点を記録)。
このEPも全く前述した通りの音。ブラック・メタルまでとはいかないが、全く「BURRN!」誌には理解されない音が満載。ゴッドフレッシュ、Sunn O)))等のインダストリアルな辺境メタルを好む向きにはお薦めしたい一枚。これ以外のアルバムやシングル、EPもこのエントリで紹介した以上に面白いので興味を持たれた向きは調べてみるといいだろう。

youtu.be

Leæther Strip - Double Or Nothing

Double Or Nothing

Double Or Nothing

デンマークのエレクトロ・インダストリアル系アーティストのシングルと初期の音源を集めた2枚組。Zoth Ommogのライセンスリリースを手掛けていたアメリカのレーベル「Cleopatra」が独自に編集したもの。
このアーティストは1989年にZoth Ommogから「Japanese Bodies」というシングルでデビューしていて、1980年代初期から活動しているフロント242、スキニー・パピー、ニッツアー・エブなんかとはスタートが遅くて、恐らく世代も違っている。物心ついてから前述したバンド達の音源を聴いてたような連中がこの辺りからデビューし、それが1990年代のインダストリアル(メタル)やEBM、ダーク・エレクトロシーンの中核を担って行った。スーサイド・コマンドー、アンプスカット、このエントリで取り上げるレザーストリップもそうだ。
レザーストリップがデビューを果たしたレーベル「Zoth Ommog」はこの時代は所謂「ベルジャン・ニュービート」と呼ばれていた音源を多く出していたレーベルで、欧州のエレクトロニック・ダンス・ミュージックなレーベルの殆どはその「ニュービートレーベル」だったようだ。
しかし、このレザー・ストリップの初期の音源を聴けば解るように、数多のニュービートレーベルとは異なっていることに気が付く。スキニー・パピーとニッツアー・エブが混ざった様な直線的でノイジーなエレボ。そしてトランシーなメロディ。元々ニュービートはエレボの派生ジャンルではあるが、音を聴けばわかるようトランスの原点にもなっているため共通項は多いが、このアーティストはトランスを奏でながらも旧来のエレボやインダストリアルも奏でることが出来ている。後に多くのニュービートレーベルがトランスやテクノに移行して行くが、Zoth Ommogはインダストリアル・メタルやエレボをリリースするレーベルに移行する。まるで先祖がえりしているような感じだが、本エントリの音を聴けば、前述したように明らかに旧来のエレボやインダストリアルとは異なっている。
ジャーマン・トランスにあった(いかにも欧州的な)ゴシカルかつ酩酊かつ陶酔していくメロディがエレクトロ・ハンマービートの上を疾走し、ディストーションヴォイスが叫ぶ。
1990年代のインダストリアルとしてインダストリアル・メタル及びロックが語られることが多いが、このアーティストの様なトランスとエレボ、そしてインダストリアルの狭間に存在していた音も見逃してはならないと思う。この二枚組は冒頭に書いた通りアメリカのレーベル「Cleopatra」から出ているのでブックオフやユニオンで探せば見つかる確率が高いので入手は難しくはない……ハズなので興味を持たれた向きは探してみるといいだろう。

Mentallo & The Fixer - Where Angels Fear To Tread

Where Angels Fear to Tread

Where Angels Fear to Tread

アメリカのエレクトロ・インダストリアルデュオの3rd。
これも所謂「ダーク・エレクトロ」系になるとは思うけど、そこはZoth Ommog。EBM⇒ニュービート⇒トランスの流れを感じざる得ない音。この二人組はアメリカのテキサスなのだけど。
ホント、Zoth Ommogのレーベルカラーに相応しい音で、この人達がアメリカ出身だということが信じられない。インダストリアル色が濃いニュービートがそのままトランスへと移行しなくて、(トランスへの繋がりも感じつつ)ニュービートのまま留まっている、といいますか。レザー・ストリップをジュノ・リアクターがリミックスしたらこうなるだろうな、って趣。
このアルバムは彼ら二人組の三枚目で、その「レザー・ストリップをジュノ・リアクターがリミックス」が極まっている。1stと2ndはゴシカルな初期フロント・ライン・アッセンブリーって感じであんまり面白いものではなかったりする。でもこのアルバムは当時のジャーマン・トランスやサイケデリック・トランスを聴いていたのでは?と思うような音で純粋なクオリティの向上も含めてその影響に驚く。もしかしたらWax Trax!以外でもアメリカに欧州のテクノやトランスをライセンスリリースしていたレーベルがあったのかもしれないし、トランス及びサイトランスを輸入して販売していたレコード店、そしてレイヴもあったのかもしれない。1990年代前半にエレボ及びニュービートを感じるハード・テクノを量産していたジョーイ・ベルトラムだって(ニューヨークだけど)米国を拠点にしていたしね。
これまた「サイケデリック・トランスはエレボが原点」説を補強するアルバム。サイケデリック・トランスとエレボの狭間にして異常なハイクオリティな音源は自分によし、うん、よし、過ぎるアルバム。サイコー!見つけたら即購入!以上!

Cabaret Voltaire - Drinking Gasoline

イギリスのインダストリアル・グループのダブル12inchを収録したCD(デジタルリマスタ)に「Gasoline In Your Eye」というタイトルで出た映像作品の入ったDVDがついたもの。
この時期(1985年)のキャブスはEBM期でも全盛といったところだろう。1983年のアルバム「The Crackdown」前後からエレボ化したキャブスだったが、「2X45」で見せたポスト・パンク的な呪縛から逃れるのは困難だったようでジョイ・ディヴィジョン的なポジパンもあり過渡期な部分もあった「The Crackdown」。
しかし、次のシングル、アルバム辺りからインダストリアル・エレクトロ・ファンクとでも形容すべき様な音に移行し、これが後の「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」へと繋がって行く。リミックスをエレクトロ系のプロデューサーJohn Robieを頼んだりしているのが印象的だ。特にAdrian Sherwoodとの共同Pちゃんで出した1987年の「Code」はEBM期最終作にして最高傑作。
が、エレクトロといっても当時のユーロ・ビートやハイエナジー、イタロ・ディスコ的な要素は皆無で時に歪みひんやりとしたエレクトロ・ビートにダークなメロディ、ノイジーなギター、不穏なサンプリング音を展開するその様は流石、ノイズ・インダストリアルあがりでそれはやはり後のエレボ勢の音に近い……というかこの頃のキャブスの音がそのお手本になったのだと思われる。初期のフロント・ライン・アッセンブリー、ミニストリー、リヴォルティング・コックスを聴けば如何に影響されているかが解るはず。
ポーション・コントロールと並んでエレボの原点。初期FLA、リヴコ好きは聴かないと!

Mark Stewart - Metatron

Metatron

Metatron

イギリスのポスト・パンクバンド、ポップ・グループのヴォーカル、マーク・スチュワートの3rdソロアルバム。
一枚目からバックにOn-U勢(エイドリアン・シャーウッド、キース・ルブラン、スキップ・マクドナルド、Doug Wimbish)を迎えて、ハードコア・ダヴ、インダストリアル・ダヴを実践していた。このアルバムも1stの路線とはあまり差異が無い。しかし、前作がポップス路線に傾いた曲もあったので、その延長線上かと聴く前は思ったが、今作においてそれは一切無のインダストリアル・ハードコア・ダヴが満載。
この時期、On-U勢は多くのEBM系、インダストリアル・ロック系のバンド、アーティストを手掛けていたが(一番有名なのがナイン・インチ・ネイルズ)、それはこのマーク・スチュワートのソロ音源に因る部分が多い。ホワイトハウスに代表される絶叫パワーエレクトロニクスをダヴ化したような音は多くのインダストリアル、オルタナティヴバンドに衝撃を与えたのは想像するに難くない。
またこのアルバムは当時のEBMやアシッド・ハウスをも取り入れているが、それは後にテクノヴァなる名義でトランス・ダヴを展開するデビッド・ハーロゥの仕事だろう。マーク・スチュワート流のミニストリー、アシッドが聴けるのはこのアルバムだけだと思う。
よりハードコアなインダストリアル、パワーエレクトロニクスとダヴの融合の深化とエレボディ、アシッドともリンクする音は刺激的過ぎて誰にも真似できない境地!ウルトラ・マスト・バイ!以上!

Evils Toy - Organics

Organics by Evil's Toy (2010-06-22) 【並行輸入品】

Organics by Evil's Toy (2010-06-22) 【並行輸入品】

ドイツのエレクトロ系バンドのシングル等の初期音源を集めたコンピレーションアルバム。Infacted Recordingsの「カルトEBMクラシッカーシリーズ」12弾!
このシリーズは1980年代後半から1990年代初頭のEBM、ニュービートの主にZoth Ommogのバックカタログからだったが、この音源は「Hypnobeat」という別のレーベルから。しかし、このレーベルもエレボディ系の音源を出してたよう。でも同レーベルのカタログを眺めているとゴス系のProject Pitchforkに加えて、ゴシック・ロックやメタル系のバンドも多数いて、米国にあるレーベル「クレオパトラ」の1990年代の様相に近い。
そういうレーベルカラーを反映したのかは知らないが、このEvils Toyもゴスっぽい。というかジャーマン・トランス、後のサイケデリック・トランスみたいな曲が殆どで、ディストーションの効いた吠える濁声が無ければ、全くそれ。スキニー・パピーをより推し進めた1990年代の所謂「ダーク・エレクトロ」はレザー・ストリップ、アンプスカットを聴けば解るようにテンポが速くなり、トランシーなメロディを多用したが、それは同時期のゴシック、ダークさを取り入れ始めたジャーマン・トランスとも同期し、それがサイケデリック・トランス、ゴアにも繋がって行くのは何回かこのブログでも書いた。
このバンドが出す音は全く、ダーク・エレクトロとサイケデリック・トランスの間のような音。哀愁と陶酔感のあるメロディがデペッシュ・モードも感じさせてくれ、たまらない出来だ。
1990年代の「ダーク・エレクトロ」もまたエレボディの軌跡には欠かせない音だということを改めて認識させてくれる「カルトEBMクラシッカーシリーズ」12弾。素晴らしい出来なので見つけたら即購入すべき。以上!