Yeht Mae - Transmitter

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アメリカのエレクトロ・インダストリアル系デュオの3rd。
1990年代前半、欧州やこの日本ではトランス、アメリカではインダストリアル・メタルの風が吹いており、エレクトロニック・ボディ・ミュージックは雲散してしまったかの様に見える。しかし、このアルバムをリリースしていたドイツはハンブルグに拠点を持つZoth Ommog、アメリカのクレオパトラなどの幾つかのレーベルが雲散してしまったハズの音源を扱っていて、それなりに健在だったよう(が、当時を知る向きには何時雲散しても可笑しくない状況だったそう)。
このアルバムもその雲散したEBM系の音だが、初期Zoth Ommogを思い起こさせるニュービートに近い音。ニュービートについてはこのブログで何十回も説明してきたので本エントリでは手短にしたいが、エレボの派生ジャンルでよりダンサブルにしてフロア映えするように変えたものだが、そのダークさゴシカルな雰囲気は後のトランス、更に後のサイケデリック・トランスに繋がって行く。勿論ポップで明るいニュービートトラックも多かった(そちらの方がメインだったと思う)がこのZoth Ommog製のそれはダークでゴシカルなものが圧倒的だった(興味を持った向きは「Technopolis」というコンピを探してみるといいだろう)。
このアルバムはそのZoth Ommog製ニュービートだが、エレボ色も強く残しており面白い。それもフロント・ライン・アッセンブリー的なサイバーなエレボ。ヴォーカルも無く(あってもメロディ的)ヴォイスサンプルを多用するインストが中心で、全くトランス色が強いニュービートだが前述した通りFLA的エレボをも持っている点が特異。
Zoth Ommog製ニュービートとFLAが交差する時……。入手は困難を極めるだろうが、貴方の街のブックオフやディスク・ユニオン各店を巡って見つけて欲しいお薦めの一枚。

Funker Vogt - Thanks For Nothing

Thanks for Nothing

Thanks for Nothing

ドイツのEBM系バンドの1st。
ミリタリー・ファッションに身を包み、エレボ系の音といえば……もうフロント242というエレボ提唱者たちしか思い浮かばない。しかし、時代は1990年代も後半。単なるフォロワーや原点回帰にはなっていない。
このアルバムの特徴といえば、フューチャー・ポップとエレボの融合だろうか。やたら酩酊する、かつ陶酔感のあるシンセメロディに攻撃的なエレクトロ・ハンマービートにディストーションが効いた濁声シャウト。まるでフロント242がサイケデリック・トランスをやっているような音と言えば端的に伝わると思った。
サイケデリック・トランス!そう!このフューチャー・ポップはエレボ、ニュービートを起源としたゴア、サイトランスが再びエレボと結びついたジャンルという認識が個人的にある。一周周ってまた同じ場所に来てしまった、というわけだ。しかし、その音像は以前のそれとは違ってしまっていることは解るだろう。なのでチャラいユーロ・トランスみたいな音も多いが、このエントリの様によりエレボ色を前面に出している硬派なバンドも多い。
霧散してしまったハズのEBMの軌跡が此処に……。ちとトランスが過ぎるが硬派なエレボを求める向き、ジュノ・リアクター辺りのサイケデリック・トランスが好きな向きにはお薦めしたい一枚。

Front Line Assembly - Tactical Neural Implant

Tactical Neural Implant

Tactical Neural Implant

カナダのEBM系ユニットの6th。
初期はキャバレー・ヴォルテールポーション・コントロールを思い起こさせる、ひんやりとして暗いエレボだった彼ら。……だけど、どうにもその眷属から抜け出せない感があり、加えてそれら(キャバレー・ヴォルテールポーション・コントロール)を水で薄めたような音源が目立ち、クオリティが低かったように思える。しかし、5th「Caustic Grip」前後から、飛躍的な進歩を遂げることが出来、一躍シーンのトップに躍り出た。ちょうどシーンが沈静化かつ衰退していた頃なので、彼らの活躍は当時大いに皆を奮い立たせたことは想像に難くない。その飛躍的な進歩はこの作品にも聴くことが出来るだろう、と当時の聴衆たちは思ったのかもしれないが、どうもそうもいかなかったよう。
この作品は前作からスピードとメタルっぽさを抜いたもの。ミドルテンポの曲が大半かつ前作よりもエレクトロニックになっている。これは当時欧州で台頭していたトランスの影響かもしれない。ダークでゴシカルかつ哀愁のあるメロディラインはハートハウスやスーパースティション、そしてMFSから出て来るような所謂ジャーマン・トランスに酷似している。そこに彼ら独自のサイバーパンクなエレボが加味された感じ。アルバムの大半の曲が四つ打ちなのもそれを思わせる。この作品が当時、日本では「ハードコアテクノ」として売られていたそうだが……。まだトランスというジャンルが一般的ではなかったのだろうか。
前作のノリを期待する向きを裏切る内容になっていて、お薦め出来ないが、それを全て忘れて聴けば、トランス、エレボの狭間を感じる稀有な作品であったことは間違いないと個人的に思う。

Muslimgauze - Sufiq

Sufiq

Sufiq

イギリスのアーティストによるプロジェクトのEP。
ムスリムという名が示す通り、このPは中近東な音像を聴かせてくれるのだが、所謂「ワールド・ミュージック」とは全く異なっているのはこのPがノイズ・インダストリアルの系譜で語られていることから解ると思う。
しかしながら、そのノイズ・インダストリアルともまた異なっており、中近東という一巻したコンセプトはあるが、どのジャンルに入れていいのか悩んでしまう。中近東を軸にダヴ、ノイズ、トライバル、トランス、IDM……などがミックスされているので全く(どのジャンルに入れるべきなのか)悩ましいのだ。しかも、どの音源も安易かつ違和感を感じない見事な融合を成功させているのは圧巻。
このEPはその中でもトライバル色が前面に出ていて、彼の作品の中では一番ダンスフロア向けではないだろうか(そんな場面に遭遇したことはないけど)。どの棚に入れるべきかと問われれば、サイケデリック・トランスだろうか。ダンサブルなトライバル・ビートの上を疾走する中東のアシッドなリフがサイケデリックにトランスしてくれる。隠し味程度のデジタル・ノイズもまた心地よい。
アルバムでは怪しげな中東ダヴ、アンビエントIDMなどを聴かせてくれるものが多いが、このEPは一貫してトライバルにしてメロディアス。トライバル・トランス、サイケデリック・トランスを好む向きには是非ともお薦めしたい一枚。

Filter - Crazy Eyes

Crazy Eyes

Crazy Eyes

ナイン・インチ・ネイルズのツアーサポートメンバーとして活躍していたRichard Patrick率いるアメリカのインダストリアル系ロックバンドの8th。
NINに関わっていたことでドロドロかつ暗く重い音像を期待する向きもいるだろうが、割と明るいアメリカン・ロックンロールな音を出すバンドだったりで、その手の向きの期待を裏切ったりする。でもこのアルバムは前作に続いて傑作アルバム。
端的に表すならブロステップとアメリカン・ロックンロールの融合だろうか。昨今(というよりもここ10年位)ミクスチャー系、インダストリアル系のバンドやアーティストがブロステップを取り入れて、そのラウドぶりを競っているのだが、遂にこのバンドもどうやらその仲間入りのようだ。
前作はネオアコやハウスを取り入れた、割とお洒落……というかカフェでかけても五月蠅くない音に仕上がっていて、最初は軟弱だなぁと思ったが、聴いていく内にインダストリアル・ロックとハウス、ネオアコの融合という異形の音に魅せられていった覚えがある。
本作はそこから脱却してよりインダストリアルかつデジタルでラウドなロック路線に移行。ワブルベースがビリビリする曲あれば1980年代後半のライバッハみたいな曲もあり、一辺倒ではない部分も魅せる。特にワブルベースがさく裂する曲は1990年代後半の(ハウス寄りではなくロック寄りの)ビッグ・ビートを思い起こさせる。
最近のコンビクライスト、メトロポリスから出てくるようなシンセ・ロックバンドを好む向きにはお薦めしたい一枚。

Fear Factory - The Industrialist

The Industrialist

The Industrialist

アメリカのインダストリアル・ヘヴィ・メタルバンドの9th。
1990年代のインダストリアルことインダストリアル・メタル路線復活アルバム。Pちゃんに元フロント・ライン・アッセンブリーのライズ・フルバーを迎えて、アルバムタイトルに恥じない出来。しかも、今作は全編に亘って打ち込みという拘りよう。
しかしながら「Demanufacture」のようにシンセメロディを前面に推しだしたものは少なく、ひたすらに重機や重戦車の駆動音みたいなインメタで押しまくるという、渋さと漢が過ぎるインダストリアル・スラッシュ!
インメタ期のFLA如きサイバー・デジタルをよりスラッシュ・メタルにしたような鬼インダストリアル・ハードコアが此処に……。インメタ期の彼ら、FLAのインメタ期が好きな向きにはお薦めできる一枚!とても短い紹介文になってしまったがこれで終わりとしたい。

Razed In Black - Shrieks, Laments, & Anguished Cries

Shrieks Laments & Anguished Cries (Dlx)

Shrieks Laments & Anguished Cries (Dlx)

アメリカはハワイ州出身のインダストリアル・メタル系アーティストの1st。
出身地からハワイアンな装いが浮かぶが、その要素ゼロ!どころかマイナスの1990年代のインダストリアルことインダストリアル・メタルが満載のアルバム。
マリリン・マンソンっぽいゴシックなヴィジュアルをしているがその要素もゼロという面白いアーティスト。マンソンとかよりもインメタ期のフロント・ライン・アッセンブリー(以下FLA)に近い音。という訳でスラッシュ・ギターをかき鳴らしながらもトランシーなデジタル・リフも忘れない趣で、同じくFLAなインメタを魅せていたBirmingham 6に最も近いのかもしれない。
しかし、インメタ期のFLAがサイバー・デジタルとスラッシュ・メタルを融合させて映画「マトリックス」ばりのサイバーディストピアを魅せていたのと比べてこのアーティストはフィジカルな要素を前面に出している様に思われる。それはスピード・メタルならぬスピード・エレクトロニック・メタル・ボディを実践していた1990年代前半のディー・クルップスにも似ている。疾走感するエレクロニック・ボディ・ビートの上をこれまた疾走するスラッシュ・ギターにトランスするシンセ、そして吠えるディストーション・ヴォイス……。
短い紹介文になってしまったがこれで終わりたい。FLA、ディー・クルップスの中間に存在するようなアルバム。熱さとトランスが同居する傑作インメタ!お薦め。