Dakar & Grinser - Are You Really Satisfied Now

Are You Really Satisfied

Are You Really Satisfied

ドイツのエレクトロ系デュオの1st。
ジャケットの黒ずくめの服に漢(おとこ)二人という図はDAFとかニッツアー・エブ……つまるところの「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」を想像するのには難くない。
しかしながらエレボ一直線的な音では無く、ハウスが混じった様な感じ。1990年代前半のネオン・ジャッジメントっぽいと言えばその筋には通じるかもしれない。
話は少し変わるが、このアルバムを出している「ディスコB」というレーベルはドイツらしい硬質でハードなトランス、ハードテクノを出していたレーベルだがパトリック・パルシンガー、マイク・インクといった曲者アーティストの音源も出していて、巷に溢れていたジャーマン・トランスやテクノレーベルとは一線を画していた。またDAFのドラマーであったロバート・ゲールもこの「ディスコB」から音源を発表している。この二人組もその曲者だろう。
このアルバムが発表されたのは1999年。1990年代半ばから勃興し台頭していたハードミニマルもこの辺りから陰りを見せ、「エレクトロ・リバイバル」という1980年代のニューウェイヴやエレクトロが見直され始めてきた頃。特にドイツはいち早くエレクトロ目を付けていた国だった。その流れから、このようなアルバムが産まれたのだろうが、曲者二人が選んだのはEBMだった。
EBMもこの辺りから見直されて来た感があった。リッチー・ホゥティンがMixCD「Decks, EFX & 909」でニッツアー・エブを使ったり、ジゴロからテレンス・フィクスマーが出てきた。これは重要な事件だったと思う。リッチー・ホゥティンは当時、前述したハードミニマルを作りかつDJセットに組み込むアーティストだったからだ。リッチーのような世界的なDJがEBMをセットに入れてしまうことはシーンに相当な影響を与えただろう。しかもそのEBMハードミニマルとばっちり合うジャンルだったことも大きい。後にライバッハがアルバム「WAT」でスロベニア出身で同じくハードミニマルなテクノやエレクトロを作っていたUmekを起用したのはリッチーの影響だと見ても、案外間違ってないと思う。そしてUmekの2nd「Neuro」はジャンル的にはエレクトロだが、ニッツアー・エブを思わせる様な曲やスキニー・パピーを感じるダークで殺伐としたインダストリアル・エレクトロが満載の傑作だった。
後のDAFのコピーバンドかと間違えるようなオールドスクールEBM勢とは違い、DAFがアシッド・ハウスを奏でているような奇妙なアルバムだが、EBMリバイバル黎明期の重要な盤として挙げてもおかしくないだろう。

NON - Easy Listening For Iron Youth: The Best Of NON

Easy Listening For Iron Youth: The Best of Non

Easy Listening For Iron Youth: The Best of Non

アメリカのインダストリアル系アーティストの1975年から1991年までの厳選した音源を収録した所謂「ベスト盤」。
このアーティストは冒頭に書いた通り、古くから活動するアーティストの一人。キャバレー・ヴォルテールやスロッビング・グリセルなんかと同じ時期から活動し始めているのではないかと思う。近年ではヴァチカン・シャドウなんかとコラボをしていて、未だに現役のよう。
まぁでもこのアーティストは検索なんかしたりすると割と問題というか……。ライバッハと同じくパロディだと思うのだけど(あって欲しい)全体主義、ナチズム、オカルトなどのヴィジュアルやコンセプトを打ち出したものが多い。オカルトはまぁ良いのだけど、前者の全体主義やナチズムはウルトラ大問題!ライヴもライバッハと同じく(問題のあるデザインの)軍服姿だとか……。
でもそんなことは置いといて(自分もその辺りには詳しくないし)、音だけを聴くと、あら不思議、良いじゃないですか!ライバッハはビート系……つまりEBMなのだけど、このアーティストはダークアンビエントにも似たゴシックで不穏かつ重苦しいリフを多用してくる。かつそのリフをループさせたりしてくる曲がマジで素晴らしい。パワエレなハーシュ・ノイズ曲も良いけど。クレジットを読んだら、「六月死」ことデス・イン・ジューンのダクラス・ピアードや元デス・イン・ジューン、ソル・インヴィクタスのトニー・ウェイクフォード、果てはコイルの二人、MUTEの長ことダニエル・ミラーまで参加してるようで、このレベルの高い不穏さと高品質ぶりに納得が出来た。
個人的な認識として今までヴィジュアルとコンセプト重視の頭でっかちなアーティストだと思ってたけど、音楽的にもこんなに面白いものを作る人だったとは思わなんだ。ノイズ・インダストリアルに対して「ピーピー・ガーガー鳴ってるだけでしょ」と思っている向きには是非とも一聴して欲しい悪夢的な音楽。

Tim Hecker - Virgins

Virgins [Analog]

Virgins [Analog]

アメリカのIDM系アーティストの8th。
暑い……。というわけで暑苦しいエレボとかインメタとか紹介する気が全く起きてこないので、このアルバムを紹介したい。
このアーティストはエレクトロニカIDM系の全盛期であった2000年代初頭から頭角を現し始めたのだけど、その音像は同時代のそれとは大きく異なっていた。でも当時はそれが何故異なっているのかが、全く気がつけなかったのだが……。
1970年代末期から、「ノイズ・インダストリアル」と呼ばれるジャンルが勃興したのはこのブログを見る向きはご存じだろう。ノイズ、と言うと騒々しい音楽というのが一般的な認識だが、そうではない音源がいくつも存在した。それはアンビエントと呼んでも可笑しくないもので、代表的なアーティストやバンドを挙げるとソヴィエト・フランス、ルストモード、ノクターナル・エミッションズ、コントロールド・ブリーディング、カレント93、ヴァジリスク、デス・イン・ジュンだろうか。これらのバンド、アーティストは主にインダストリアル・シーンで語られていたが、今聴くとIDMアンビエントに近い。そういう逸脱していた音を当時はインダストリアルの棚に入れていただけなのかもしれない。まぁノクターナル・エミッションズ、コントロールド・ブリーディングはハーシュなインダストリアルも作っていたので、一概にアンビエントとは言えなかったりする。
このアルバムも前述したバンド、アーティストに近い。ダークで耽美なアンビエント……それでいて重苦しくない、清涼感すら感じる音はヴァジリスクやノクターナル・エミッションズのアンビエントにソックリだ。どこか浮世離れしたような音もソックリ。
インダストリアル・シーンの中で逸脱していた部分はこういう形で継承されていたのではないかと思えるアルバム。とんでもない傑作だと個人的に思う。お薦めの一枚。

Yeht Mae - Transmitter

f:id:moistly:20170709181724j:plain:h200
アメリカのエレクトロ・インダストリアル系デュオの3rd。
1990年代前半、欧州やこの日本ではトランス、アメリカではインダストリアル・メタルの風が吹いており、エレクトロニック・ボディ・ミュージックは雲散してしまったかの様に見える。しかし、このアルバムをリリースしていたドイツはハンブルグに拠点を持つZoth Ommog、アメリカのクレオパトラなどの幾つかのレーベルが雲散してしまったハズの音源を扱っていて、それなりに健在だったよう(が、当時を知る向きには何時雲散しても可笑しくない状況だったそう)。
このアルバムもその雲散したEBM系の音だが、初期Zoth Ommogを思い起こさせるニュービートに近い音。ニュービートについてはこのブログで何十回も説明してきたので本エントリでは手短にしたいが、エレボの派生ジャンルでよりダンサブルにしてフロア映えするように変えたものだが、そのダークさゴシカルな雰囲気は後のトランス、更に後のサイケデリック・トランスに繋がって行く。勿論ポップで明るいニュービートトラックも多かった(そちらの方がメインだったと思う)がこのZoth Ommog製のそれはダークでゴシカルなものが圧倒的だった(興味を持った向きは「Technopolis」というコンピを探してみるといいだろう)。
このアルバムはそのZoth Ommog製ニュービートだが、エレボ色も強く残しており面白い。それもフロント・ライン・アッセンブリー的なサイバーなエレボ。ヴォーカルも無く(あってもメロディ的)ヴォイスサンプルを多用するインストが中心で、全くトランス色が強いニュービートだが前述した通りFLA的エレボをも持っている点が特異。
Zoth Ommog製ニュービートとFLAが交差する時……。入手は困難を極めるだろうが、貴方の街のブックオフやディスク・ユニオン各店を巡って見つけて欲しいお薦めの一枚。

Funker Vogt - Thanks For Nothing

Thanks for Nothing

Thanks for Nothing

ドイツのEBM系バンドの1st。
ミリタリー・ファッションに身を包み、エレボ系の音といえば……もうフロント242というエレボ提唱者たちしか思い浮かばない。しかし、時代は1990年代も後半。単なるフォロワーや原点回帰にはなっていない。
このアルバムの特徴といえば、フューチャー・ポップとエレボの融合だろうか。やたら酩酊する、かつ陶酔感のあるシンセメロディに攻撃的なエレクトロ・ハンマービートにディストーションが効いた濁声シャウト。まるでフロント242がサイケデリック・トランスをやっているような音と言えば端的に伝わると思った。
サイケデリック・トランス!そう!このフューチャー・ポップはエレボ、ニュービートを起源としたゴア、サイトランスが再びエレボと結びついたジャンルという認識が個人的にある。一周周ってまた同じ場所に来てしまった、というわけだ。しかし、その音像は以前のそれとは違ってしまっていることは解るだろう。なのでチャラいユーロ・トランスみたいな音も多いが、このエントリの様によりエレボ色を前面に出している硬派なバンドも多い。
霧散してしまったハズのEBMの軌跡が此処に……。ちとトランスが過ぎるが硬派なエレボを求める向き、ジュノ・リアクター辺りのサイケデリック・トランスが好きな向きにはお薦めしたい一枚。

Front Line Assembly - Tactical Neural Implant

Tactical Neural Implant

Tactical Neural Implant

カナダのEBM系ユニットの6th。
初期はキャバレー・ヴォルテールポーション・コントロールを思い起こさせる、ひんやりとして暗いエレボだった彼ら。……だけど、どうにもその眷属から抜け出せない感があり、加えてそれら(キャバレー・ヴォルテールポーション・コントロール)を水で薄めたような音源が目立ち、クオリティが低かったように思える。しかし、5th「Caustic Grip」前後から、飛躍的な進歩を遂げることが出来、一躍シーンのトップに躍り出た。ちょうどシーンが沈静化かつ衰退していた頃なので、彼らの活躍は当時大いに皆を奮い立たせたことは想像に難くない。その飛躍的な進歩はこの作品にも聴くことが出来るだろう、と当時の聴衆たちは思ったのかもしれないが、どうもそうもいかなかったよう。
この作品は前作からスピードとメタルっぽさを抜いたもの。ミドルテンポの曲が大半かつ前作よりもエレクトロニックになっている。これは当時欧州で台頭していたトランスの影響かもしれない。ダークでゴシカルかつ哀愁のあるメロディラインはハートハウスやスーパースティション、そしてMFSから出て来るような所謂ジャーマン・トランスに酷似している。そこに彼ら独自のサイバーパンクなエレボが加味された感じ。アルバムの大半の曲が四つ打ちなのもそれを思わせる。この作品が当時、日本では「ハードコアテクノ」として売られていたそうだが……。まだトランスというジャンルが一般的ではなかったのだろうか。
前作のノリを期待する向きを裏切る内容になっていて、お薦め出来ないが、それを全て忘れて聴けば、トランス、エレボの狭間を感じる稀有な作品であったことは間違いないと個人的に思う。

Muslimgauze - Sufiq

Sufiq

Sufiq

イギリスのアーティストによるプロジェクトのEP。
ムスリムという名が示す通り、このPは中近東な音像を聴かせてくれるのだが、所謂「ワールド・ミュージック」とは全く異なっているのはこのPがノイズ・インダストリアルの系譜で語られていることから解ると思う。
しかしながら、そのノイズ・インダストリアルともまた異なっており、中近東という一巻したコンセプトはあるが、どのジャンルに入れていいのか悩んでしまう。中近東を軸にダヴ、ノイズ、トライバル、トランス、IDM……などがミックスされているので全く(どのジャンルに入れるべきなのか)悩ましいのだ。しかも、どの音源も安易かつ違和感を感じない見事な融合を成功させているのは圧巻。
このEPはその中でもトライバル色が前面に出ていて、彼の作品の中では一番ダンスフロア向けではないだろうか(そんな場面に遭遇したことはないけど)。どの棚に入れるべきかと問われれば、サイケデリック・トランスだろうか。ダンサブルなトライバル・ビートの上を疾走する中東のアシッドなリフがサイケデリックにトランスしてくれる。隠し味程度のデジタル・ノイズもまた心地よい。
アルバムでは怪しげな中東ダヴ、アンビエントIDMなどを聴かせてくれるものが多いが、このEPは一貫してトライバルにしてメロディアス。トライバル・トランス、サイケデリック・トランスを好む向きには是非ともお薦めしたい一枚。