Muslimgauze - Souk Bou Saada

Souk Bou Saada

Souk Bou Saada

英国出身のアーティストによる2012年発表のアルバム。
1999年に鬼籍に入っているのに、コレ如何に?と思って調べたら、またしても彼が遺した大量の未発表音源(今回はアルバム単位だと思う)から発掘したもの。
で、調べている内に入ってきたのだが、今作は東インドをモチーフにしたブレイクビーツものだそう。確かに全編に亘ってシタールをしつこい位にフィーチャーしていて、インドっぽい。
あと今作はダヴ度が希薄でひたすらトライバルビートで迫ってくる。彼のダヴは時にディープ過ぎて気分によって重い感じを受けるが、これはあんまりない。……というか淡々と続いていくビートに眠くなったりする。
でも、この手の音楽にありがちな押しつけがましさやけばけばしいほどの派手さが無く、淡泊。しかしながらも時折耳を唸らせるヴォイスサンプリングやメロディが入ってくるのは流石。
初期ムスリムガーゼのダンサブルなトライバルビートを上手く更新させた傑作。シタールの鳴りもサンプリング・ヴォイスも良し。自分によし、うんよし。700枚限定とのことだが、ユニオン等で見つけたら即購入をお薦めしたい。

youtu.be

Laibach - Also Sprach Zarathustra

Also Sprach Zarathustra

Also Sprach Zarathustra

ユーゴスラヴィアのインダストリアル系バンドの16th。
前作のブロステップ調のEBMから一転、マーシャル・インダストリアル一直線なものから、ネオクラシカルIDMまでとかなり実験的なアルバム。
だが、一聴してライバッハと解ってしまうのは圧巻。前作のブロステップもそうだけど、彼らは自分たちの音を崩すことなく、新しい音を取り入れるのが上手い。
ライバッハはチトー大統領の死後……つまり1980年から活動している息の長いバンド(その間に国が解体してしまう!現在はその旧ユーゴからいち早く脱退したスロベニアを活動の拠点としている)だが、実は流動的でその時によってメンバーがかなり違っているよう(しかし、例の四人は必ずいた。近年までは)。なので、結構時流に沿った音を出して来ていたりする。アルバム「Kapital」でハウス、「NATO」ではトランス(リミックスにその時点ではかなりアングラだったジュノ・リアクターを抜擢!)、「Jesus Christ Superstars」ではインダストリアル・メタル……。
が、さっきも書いた通り、ライバッハ印は全く持って健在なので驚いてしまう。これほどまでに核がしっかりとしたバンドも珍しいかも。
このアルバムは前作の様な激しさを求める向きには物足りないだろうが、彼ら特有の重厚さ荘厳さは過去のどの作品よりもあり、そのノリが好きな向き(俺だよオレ!)にはお薦めしたい一枚。また新たな一手を出してきたライバッハには今後も期待できそうだ。個人的に今年のベスト。

KMFDM - Hell Yeah

Hell Yeah

Hell Yeah

ドイツのインダストリアル・メタル系バンドのもう何枚目になってるのか数えたくないアルバム。
アメリカのEBM、インダストリアル・メタル系のレーベル「メトロポリス」からドイツの「Ear Music」というロック、メタル系のレーベルに移した模様。日本のBabymetalも居た模様。
しかし、レーベルが変わろうともあのKMFDMサウンドは健在。しかも今作はブロステップ、果ては初期の頃のようなダヴまで演っているという超意欲作!
ここ10年あまりはシンセベースがブンブン疾走していく「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」ノリだったが、ここに来てダヴ……。それも只のダヴじゃなくてミニストリーの近作にも聴かれたような、スラッシュ・メタルなダヴ。沈み込むようにザクザクと斬っていくスラッシュ・ギターが心地よい。
彼らの座右の銘である「ウルトラ・ヘヴィ・ビート」がEBM及びインメタ由来のそれとダヴが結びつくことにより、より増し増しなものへと深化。まだまだKMFDMは健在!買え!以上!

Laibach - Krst Pod Triglavom - Baptism

Krstpod Triglavom - Baptism

Krstpod Triglavom - Baptism

ユーゴスラヴィアのインダストリアル系グループのアルバムのタイトルにもなっている「Krst Pod Triglavom - Baptism」というオペラ(演劇かも?)のサウンドトラック。
ライバッハにオペラの劇半を頼む……これほどの適役もおるまい。振り下ろされる、叩きだされるハンマービート及びメタル・パーカッションの上を荘厳なメロディが流れ、それをバックにして激情的に歌い上げるヴォーカル……。……いつも通りのライバッハだ。
元々がそういうスタイルだったため、今の今までこれがオペラの劇半だとは気が付かなかった。しかし、これほどまでにそれが合ってしまうグループはこの手のジャンルでは中々見つからないだろう。またこのことから彼らのMVがオペラ風だったりするのにも気が付いた。もしかして彼らのルーツはオペラにあるのかもしれない。そして、それをDAF由来のエレクトロニック・ボディ・ミュージックと混ぜた……。このライバッハというグループはそうとしか見えなくなってしまった。
全くいつも通りのライバッハのアルバム(アルバム「Opus Dei」からの曲も幾つか入っている)。なので彼らの音が好きな向きで持ってない人は買い!でしょう。短い紹介文になってしまったが以上!

V.A. - The Sound Of Belgium Vol. 2

Sound of Belgium Vol.2

Sound of Belgium Vol.2

このコンピレーションアルバム4枚組は所謂「ベルジャン・ニュービート」と呼ばれていたものが殆どを占めている。やっとこういったジャンルの見直しも始まったということだろう。
元々ベルギーは1970年代後半からテレックスというエレクトロ・ポップグループが居て、同時期に世界各国から出てきた同じようなバンドやグループともにシーンは栄えていたよう。しかし、その後、この手のジャンルが衰退していって生音指向に戻って行った。
が、ベルギー(とその周辺国)だけはエレクトロニックに拘った音を量産し続けていた。代表的なグループを挙げるとするならフロント242だろう。クラフトワークDAFに影響されたフルエレクトロニックな音楽は当時、時代錯誤とされ日本のある中古盤屋ではフロント242のシングルが投げ売りされていたそうだ。
しかし、愚直にも長く続けていれば日の目を見るのだろうか。1980年代後半にもなるとアメリカのシカゴやニューヨークを端としたハウス、アシッド・ハウスが欧州で猛威を振るい始め、同時に「エレクトロニック・ボディ・ミュージック(以下EBM)」も猛威を振るい始めた。
そして、ベルギーにはその猛威を更に猛威とさせることが出来る土壌があった。そうフロント242(彼らはそのEBMというジャンル名の提唱者でもある)を始めとするEBM勢だ。1980年代半ば前後には見向きもされなかった音が表舞台に舞い降り、そして雨後の竹の子のようにレーベルが増えた。しかもその雨後に産まれたレーベルはフロント242を始めとするEBM勢よりもダンサブルでダンスフロア向けを中心とした音だった。それは猛威を振るっていたアシッド・ハウスの影響だろう。EBMをベースによりドラッギーでよりトランシーな音作りをしていた。そしてそれこそが「ニュービート」と成る。
周辺国もそれに乗り、特にドイツのエレクトロニック・ダンス系のレーベルはその殆どが「ニュービート」レーベルだった。ケン・イシイを輩出したR&Sが有名だろう。R&Sは当時ベルギーに多くあったそれと同じであったが、1990年、同レーベルから出たジョーイ・ベルトラムの「Beltram Vol.1」はニュービートをハードコア・テクノに発展させた。その後もベルトラムは「音の暴力」としか形容出来ない音を量産していく。特にオランダのハードコア、ガバの雄ポール・エルスタックとのユニット「Hard Attack」は極限までその暴力性を高めた傑作だろう。また同レーベルのCJボーランドといったアーティスト達がニュービートをトランスへと発展させてもいく。
このコンピは今まで書いてきた、ニュービート黎明期からハードコア移行期、移行後、トランス前夜までの道のりを聴くことが出来る。でも一枚目はテレックスなどのニューウェイヴものも収録されているのでニュービート前夜まで聴くことが出来てしまう。
今までこの手の音聴きたければ、ブックオフなどで「テクノ」や「アシッド」という題名の付いた1980年代後半のものを発掘する、ないし動画共有サイトなどのネットでしか聴くことが出来なかった。しかし、このようなコンピが新たな形でまとめられたのは快挙だろう。興味を持たれた向きは一聴してみては如何。

Muslimgauze - Azzazin

Azzazin

Azzazin

英国のアーティストによる1996年発表のアルバム。自分が持ってるのは2004年に(2ndエディションとして)再発された盤の模様。
このアーティストといえば中東……アラビックな音像を魅せてくれるので有名。しかし、このアルバムはそれが無。またこのアルバムの不穏さと不可解さはなんなのだろう。
アルバムの殆どの曲がビーとかブーとかチリチリとかのブリープ音やグリッチ音で構成されている。当時、出始めていたオヴァルなんかのIDM系の音を取り入れたのかもしれないが、それにしてはベースがビリビリ(not御坂美琴)効いていて、どちらかと言えば後のダヴステップに近い。それもヒップホップ寄りのダヴステップじゃなくて、スコーンとかザ・ハクサン・クロークに近い。ダークでヘヴィ・インダストリアルなダヴステップだ。そして、そこへ不穏なアラブ・サンプリングが時折入って来て、よりアシッドかつダークな音像を増し増しにしてくるのがなによりも恐ろしい。
このアーティストの特徴であるアラブ音楽は希薄だが、不穏さと不気味ぶりはどのアルバムよりも濃い。アルバムタイトルが「アサシン」とはうまくいったもの。ザ・ハクサン・クローク、レーベル「Blackest Ever Black」を予見したかのような音は圧巻。二十年経った今こそ多くの人間に聴かれ、絶賛されるべきアルバムだと思う。真のオーパーツが此処に……。ちょうお薦め。

Tim Hecker - Ravedeath,1972

Ravedeath 1972

Ravedeath 1972

アメリカのIDM系アーティストの7th。
このブログで2013年発表の「Virgins」を紹介して、1980年代のアンビエントなインダストリアルとの相関関係を書いてみたが、このアルバムは正にそれだ。
先ずジャケットの大学の屋上と思しき場所からピアノを落している古い写真(アルバムタイトルにあるように1972年だろう)からクラ二オクラスト的な退廃がビシバシ伝わってくる。
そして、音もそのクラ二オクラストの諸作、コントロールド・ブリーディング、ノクターナル・エミッションズ、コイルのアンビエントを思わすインダストリアル・アンビエント。またデス・イン・ジューン、カレント93、ヴァジリスク、ソビエト・フランスといった所謂「リチュアル・ノイズ」も思い起こすことだろう。
しかし、このアルバムが圧倒的なのは1990年代のワープを代表とするインテリジェント・テクノ(後のIDMエレクトロニカ)も思わせるメロディや展開を持っているとこだろう。初期オウテカ、B12、そしてAFXの「アンビエント・ワークス」といった音源が浮かぶ。このアシッド・ハウスを端とするレイヴやトランスを通過したインテリジェント・テクノはトランスの酩酊感や陶酔感をそのままにビートだけを削除したような音でブライアン・イーノが提唱するアンビエント「家具の様な音楽」とは全く異なっていた。
タイトルの「Ravedeath」にあるように狂騒の終わりを表わしたインテリジェント・テクノと退廃的な「リチュアル・ノイズ」が交差した恐るべきアルバム。KTLなんかのドローン系のブラック・メタルが好きな向きにもお薦めしたい一枚。