VR Sex - Human Traffic Jam

Human Traffic Jam

Human Traffic Jam

米国のダークウェイヴバンドの1st。
Drab Majestyのメンバーを中心とした3人組だそうで、Drab Majestyがそうだったようにこのアルバムも黒い波が全編に亘って襲ってくる。
しかし、Drab Majestyと比較するとこのバンドはよりダークかつハードでヘヴィ・インダストリアル。キュアーの「ポルノグラフィー」やアシッドなシンセ、ギター、そしてエレクトロニクス・ハンマービートはエイリアン・セックス・フィエンドやベルフェゴーレを思い起こさせる。特に6、7曲目はキュアーが2000年代のエレクトロをやっているような耽美でダークなエレクトロ具合が素晴らしい。
本ブログでも紹介したShe Past Awayもそうだが、本当に昨今この手の音が台頭しているようだ。このアルバムを出しているDais RecordsもそうだがドイツのDetriti Records、ロシアのSierpien Recordsなどなど一聴するだけで、1980年代半ばから後半のフールズメイト誌が脳裏に浮かんできてしまうような暗黒ニューウェイヴぶりには驚かされる。しかもどの音源もここ数年で出たものが殆どで(つまりリアルタイムでは無い後追い世代なんだろう)、自分自身も後追いなだけに仲間が出来たようで嬉しい。ヴイジュアルもシスターズ・オブ・マーシーやフィールズ・オブ・ザ・ネフィリムにしか見えなかったりするのもイイ。マジで後追い世代が「こういう服装をして暗い雰囲気を醸し出すのがダークウェイヴなんでしょう?」というコスプレ感覚でやっているものと思われる。と同時に明らかにテクノ、トランスを通過した音なのにも驚かされる。本エントリで紹介しているアルバムもそうだが。
またこのDais Recordsはユース・コードといった新興EBMに加えてミッシング・ファウンデーション、MB、Prurientといった新旧のインダストリアルサウンドも出しているのが興味深い。要チェックなレーベルなのは間違いないだろう。
ネオ・ダークウェイヴな音像が此処に……。今年のベスト盤!

DAF - 1st Step To Heaven

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DAF - 1st Step To Heaven
最早このブログを覗いているような向きには説明不要なドイツの二人組による6th。
1stはアタタックというホルガー・ヒラー、デア・プラン、アンドレアス・ドラウらが居た所謂「ノイエ・ドイチェ・ヴェレ」を代表するレーベルから出て、続く2ndはこれまた英国ニューウェイヴを代表するMUTEから出ていた。
しかしながら初期の二枚はメンバーが後にデア・プランのメンバーになるピロレーター、リエゾン・ダンジェルーズのクリス・ハースらが居たせいか、試行錯誤かつ方向性が定まっていない。
メジャーレーベルの「ヴァージン」に移籍して発表した3rdが彼ら二人の方向性を定め、後の「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」というジャンルを構築(当時、似たような音がドイツ、その周辺国を主としてあったが、彼らがいち早く確立したように思える)。その極限までに音を削ぎ落としながら、ハードコアさを体現する縦ノリなエレクトロニック・パンクは同郷のクラフトワークなどのエレクトロ・ポップスとはまるで趣が異なっていた。
本作はそのメジャーレーベルの「ヴァージン」からも離れて彼らの本国であるドイツのメジャーレーベル「アリオラ・レコード」が取次をしていたDean Recordsからのリリース。そのことからなのかは知らないが、本作は以前の縦ノリからエレクトロ、ハイエナジーなどの所謂ディスコの横ノリへと移行している。本作の前にリリースされたガビ・デルガドのソロアルバムがファンクやラテン音楽を取り入れたものだったが、このアルバムはそのノリを更にエレクトロニックな方向に推し進めている。
前述したエレクトロやハイエナジーにラテンのりを加味した音は以前のDAFのエレクトロニック・パンクを期待した向きには当時どう聴こえたのだろうか(先行シングルが出た後のインタビュ記事(フールズメイト誌)を読むとロバート・ゲールが「僕たちとしてはそれほど懸念していない。例え一部分のそういったファンを失ったとしても、以前よりさらに沢山の理解者が得られると信じているし……。是が非でも暗いサウンドが欲しい人にはもう既に新しいアイドルが出来ている筈だからね」と答えている)。曲によってはイタロ・ディスコにしか聴こえないものもあったりする。ちなみに1998年に再発されてはいるがアマゾンでは品切れ(そもそもアマゾンにあるのが再発盤なのかも不明)、自分の観測範囲では再発盤を観たことが無い。ので入手には苦労するだろう(自分が持っているのは1986年に発売された日本盤)。

Birmingham 6 - Error Of Judgement

Error of Judgement

Error of Judgement

デンマークのエレクトロ・インダストリアル/EBM系グループの3rd。
ほぼ全編に亘ってフロント242のジャン-リュック・デ・マイヤーをフィーチャー。その所為かフロント242の「06:21:03:11 Up Evil」の続きを聴いているような気分になる。
しかし、「06:21:03:11 Up Evil」がインダストリアル・メタルを取り入れたものの、そのジャンルとしては消化不良を起こしていた。アルバム自体の完成度は高いが、前述した通りいまいちインメタへの乗りきれなさが残ってしまっていた。
が、このアルバムはその消化不良が綺麗さっぱり無くなり……どころか追加でもう一杯という感じで、見事なレベルアップを果たしている、それがフロント242でないのが惜しいが……。
性急なエレクトロニック・ハンマー・ビートの上を如何にもEBMなシンセベース、切れの良いスラッシュ・ギター、トランシーなシンセ・メロディが疾走し、ジャン-リュック・デ・マイヤーのヴォーカルもそこに絡みつつ疾走。
ディー・クルップス型の熱きインダストリアル・メタルを奏でながらも、1990年代のフロント242を感じる超奇怪なアルバム。

Nitzer Ebb - Showtime

Showtime -Bonus Tr-

Showtime -Bonus Tr-

イギリスのEBM/インダストリアルビート系デュオの3rd。
遅れてきたディー・クルップス、DAFのフォロワーとして現れた彼らも2nd辺りからシーンの動向が気になってしまったのか、アシッド・ハウスのノリを全面的に取り入れて他のインダストリアル・ビート勢とは趣が異なっていた。それはリミキサーにも表れていて、UKテクノの雄(だった)ウィリアム・オービットやMUTEの長(であった)ダニエル・ミラーらに頼むなど、よりダンスフロア志向が見られた。
で、この三枚目はフロア志向と初期のヘヴィなロック志向の狭間のような感じ。それは冒頭のギターのようなシンセ音からして解るだろう。当時、ミニストリーナイン・インチ・ネイルズや(サンプリングだが)ヤング・ゴッズのようなスラッシュ・メタルをインダストリアルに取込んだ、所謂「インダストリアル・メタル」が出始める一方でよりエレクトロニクスでフロア向けのジャンル「ニュービート」も現れた。この手のジャンルはフェーズ2に入っていた。そしてこのフェーズ2より、後の(米国を中心とした)オルタナティヴへ行く者たち、よりエレクトロニクスを追求してトランスへと向かう者たちと分かれることになる。
このアルバムはその分水嶺を表わしている。オルタナへの萌芽、トランスへの萌芽、その両方の芽を聴くことが出来るだろう。シングルではリミキサーに後のケミカル・ブラザーズに改名するダスト・ブラザーズの名があったりするのもその分水嶺を表わしていて面白い。

She Past Away - Narin Yalnızlık

Narin Yalnizlik

Narin Yalnizlik

トルコのダークウェイヴバンドの2nd。
今から10年前以上……つまり2000年代初頭から前半にかけて、1980年代の音楽、ニューロマンティクス、ニューウェイヴ、エレクトロ・ポップス、ハイエナジーイタロ・ディスコなどが見直され、所謂80'Sリバイバルが巻き起こっていた。そして、それらは2000年代半ばには「エレクトロ・クラッシュ」として盛り上がった。エレクトロ・クラッシュは直ぐに下火になってしまったが、その流れは以降も細々と続いていった。
で、このバンドだ。一聴しただけで、バックボーンが解るような音には驚かされてしまう。ザイモックス、シスターズ・オヴ・マーシー、トリゾミー21、キュアー、初期ネオン・ジャッジメントジョイ・ディヴィジョン……。耽美で暗黒なニューウェイヴサウンドがぎっしりと横溢している。
これまで(自分が聴いてきた中では)ダーク・エレクトロの流れを汲む、ゴシックなサウンドが多かったが、前述したようにこのバンドは驚くほどに1980年代のゴシック、ダークウェイヴで、1980年代リバイバルが此処まで来てしまったのか……という点でも見逃せない。1980年代半ばから後半の「フールズ・メイト」誌がそのまま甦ってしまったような……。
ザイモックス、シスターズ・オヴ・マーシー、キュアーが交差するとき……。

Whitehouse - Great White Death

Great White Death

Great White Death

イギリスのパワー・エレクトロニクス、インダストリアルバンドの1985年発表のアルバム。
このバンドはキャバレー・ヴォルテールやスロビッング・グリセルの影響を受けた所謂「第二世代のインダストリアル」なんだけど、そのインダストリアルにある、より過激な方向を追求したバンド。パワー・エレクトロニクスというジャンルの創始者でもあるようだ。で、そのハードコアさから様々な問題を起こし(それらの逸話を良い子は調べないように!)、仕舞には殺害予告まで出されるというオチ。曰く「ネ〇ナ〇野郎!〇〇至上主義!!女性の敵!!!」という受けたくもない三重苦を背負う始末。
このアルバムは前述した「殺害予告」で国外逃亡した後、ほとぼりが冷めた頃を待って(待ったのかどうかは知らないが……)発表した復帰作。
でも、復帰前と変わらず全編に亘って工事現場みたいなノイズをバックに程度の低い不健全なことをシャウトするという「まるで進歩が無い……」アルバム。しかし、初期キャブスやSPKから知性を根こそぎ取ったような白痴インダストリアル・サウンドは彼らにしか作れない(そして作りたくない)清々しさを感じる音だろう。
覚えたての猥褻な言葉や差別的な言葉を絶叫するような小学生マインドが横溢するインダストリアルが此処に……。とてもじゃないがディスク・ユニオン等で数千円、または数万円出すアルバムじゃないのでブックオフの500円、280円棚で探して買いましょう。そんな値段が似合うアルバム!クソお薦め!

STG - No Longer Human

No Longer Human

No Longer Human

アメリカのインダストリアル系ロックバンドの1st。
ドイツのインダストリアル・ロック、エレボディ系レーベルZoth Ommogのコンピに参加していたバンドで、その熱く歌い上げるディー・クルップス系のドイツ的エレボディスタイルが気に入ったのですが、アルバムを出していたよう。しかも邦盤!
日本のライターが書いた解説文にはミニストリーナイン・インチ・ネイルズらと同バンドを比較しているが、前述した通りディー・クルップス系のそれ。ハンマー・エレクトロニック・ビートの上を直線的なギターやうねるシンセベースが疾走し、熱きシャウトが横溢しているメタル・ボディ!
……が、9曲目が何故か初期コントロールド・ブリーディングなハーシュなパワーエレクトロニクスになっていて(後半はデス・イン・ジューンな暗黒ネオ・フォークに……)、コンピだったのか?と思うけど、同バンド。もしかして、本来はこういう音を演りたかったのかな。
アメリカのインダストリアル系ロックバンドにしては珍しく独EBMスタイルが濃い。ディー・クルップスの「Ⅱ」、「Ⅲ」が好きな向きは買ってみると面白いかも。