Hunting Lodge - 8-Ball

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アメリカのインダストリアル系バンドの5th。
初期はSPKのグレアム・レヴェル主宰のレーベル「サイド・エフェクツ」から出してたりもしてたので、やはりハードでハーシュなノイズ・インダストリアルだった。
しかし、このアルバムはノイズというよりもパンク!以前の彼らからは想像も出来ないギター、ベースのバンドサウンドが聴こえてくるので最初は同名異バンドかと思ったほど。でもノイズ上がり、そこは他に聴こえてこないインダストリアルな音像も魅せてくれる。
ここで当時の米国のシーンを(にわかなりに)見てみると、印象的なのはUハードコア、ジャンク勢だろうか。スティーヴ・アルビニがフロントマンを務める〇イプマン、ビッグ・ブラック、ミッシング・ファウンデーション、コップ・ショット・コップ、そしてそれらのバンドの原点となっているスワンズ。他にも色々なバンドが(当時)居たそうだが、冒頭にも書いた通りにわかなので勘弁して欲しい。
このアルバムは先に挙げたジャンクに近く、最も近いのがコップ・ショット・コップだろうか。この所謂ジャンクはハードコア色が強いものの、メタル・パーカッションやサンプリングを多用しており、当時隆盛しつつあったビート系のインダストリアル、つまるところエレクトロニック・ボディ・ミュージックに近い……というより従妹みたいなものか。しかし、前述したようにEBMよりはUSハードコア色が濃厚な点が異なる。
スワンズは置いて、コップ・ショット・コップ、ミッシング・ファウンデーションはUSハードコアとノイバウテンが合体したような音でUSハードコアの暴力性とメタル・ジャンクの融合が見事に花開いている。そんな魅力的な音楽にSPKのレーベルから出していた輩が喰いつかないわけがなく、このアルバムが産まれた。
ジャンク、ハードコア・パンク!な一枚。爆音で流しながら発散するのには最適な音楽。お薦め。

Plastic Noise Experience - Neural Transmission

Neural Transmission

Neural Transmission

ドイツのエレクトロ・インダストリアル/EBMアーティストの1stにEPを足した編集盤。
クラフトワークがエレボやインダストリアルを演っていたらこういうのを奏でていたのかも?って感じの音。初期のフロント242やクリニックなんかもクラフトワーク的な音像だったけど、このアーティストはコピーするだけではなく上手い具合にエレボにすることに成功している。
クラフトワークといえば元祖「テクノ・ポップ」みたいな扱いだけど、1970年代後半から1980年代の音源を聴くと、とてもトランシーな音を奏でていることに気が付くだろう。それは酩酊感や叙情的なものを出てきたばかりのテクノロジーを駆使して表わすことに成功しているという恐るべき集団だったクラフトワーク。兎角、テクノ・ポップ方面で語られてしまうがクラフトワークこそ初期のトランスの萌芽だったと自分は思ってしまう。
このアーティストはそのトランスにハードロッキンなエレボを注入しており、それが今までのバンドやユニットが聴かせることが出来なかったレベルを魅せてくれる。このコンピを聴くと冒頭に書いた通りクラフトワークがエレボを演っているのが実体を帯びてくる。
フロント242もクラフトワークを目指していたけど、水で薄める様なことしか出来なかったため(自分の個人的な考察……もとい妄想です。悪しからず)にスタイルを変更したが、そのスタイルで成功を物にした。しかし、このアーティストはフロント242が物にすることを出来なかったスタイルでものの見事に成功を手に入れている。げき恐ろしきクラフトワーク的エレボ。ちょうお薦め!見つけたら即買い。マスト・バイ!

V.A. - Body Rapture II

Deine Lakaien, Les Berrtas, Solar Enemy, Die Krupps, Schnitt Acht..

Deine Lakaien, Les Berrtas, Solar Enemy, Die Krupps, Schnitt Acht..

ドイツのハンブルグを拠点とするEBM、インダストリアル系レーベルのコンピレーションアルバムの第二弾。
このレーベルは1980年代後半には所謂「ベルジャン・ニュービート」と呼ばれているジャンルを1980年代後半、ドイツやベルギーに雨後の竹の子のように存在していたレーベルと同じく出していた。その後1990年代に入ると多くの「ニュービート」レーベルはトランスやテクノのレーベルへと移行するの(主なレーベルはケン・イシイも居たベルギーのR&S)だけど、このZoth Ommogだけはインダストリアル、メタル的なヘヴィネスさを増してEBMや1990年代のインダストリアル(メタル)へと移行……というより留まった。
このコンピは1992年発表なのでちょうどその転換期のようなものだろう。欧州にトランスの風が吹こうとも、エレボでいることが出来てしまう時代錯誤な連中の音を存分に聴ける。
しかしながら、(これは以前にも書いたが)1990年代のエレボはトランスと区別がつきにくく、特に吠える様なヴォーカルが無ければサイケデリック・トランスやゴシックな雰囲気があるジャーマン・トランスまであと一歩な音で確実に進化しており、1980年代後半のそれとは大きく異なっている。
そう!このトランスこそが1990年代のエレボの特徴だろう。当時隆盛していたトランス及びジャーマン・トランスは欧州の西側を飛び越えて東独……旧共産圏の国(旧ユーゴのクロアチアスロベニア。そしてポーランドやトルコまで)、UK、日本まで届いて人気を博していた。アンダーワールド、オービタル、レフトフィールドなんかの英国のプログレッシヴ・トランスはポップスチャートの上位に来るほどまでに売れていたのはご存じだろう。
トランスはシカゴのアシッド・ハウスが欧州に亘ってエレボと結びつくことで「ニュービート」となりそれが更に進化していったジャンルだ(アシッド・ハウスの欧州的な解釈とも呼べる)。だからトランスの原点の一つとしてエレボがあるのだけど、オービタルを聴いてもそれを感じることは出来ないだろう。しかし、ジャーマン・トランスの一部、サイケデリック・トランスの一部にはエレボを感じることが出来る。そういうことから1990年代のエレボはサイケデリック・トランスの前段階、つまりプレサイケトランスを指し示すことでそのジャンルと(少しだけ)交わりながらも独自の路線を歩むことで健在していたのだろう。
ビート・インダストリアル、エレクトロニック・ボディ・ミュージックサイケデリック・トランスが交差するとき……。ちょうお薦め。買え!以上。


Vigilante - The Heroes' Code

Heroes Code

Heroes Code

チリのインダストリアル・メタル系バンドの1st。
自分が初めて聴いたのは2ndなのだけど、その時はドイツのバンドかと思った。というのは余りにもディー・クルップスっぽかったからだ。ハンマビートの上をスラッシュ・ギターとアシッドなシンセベースが疾走し、ヴォーカルもまた疾走するその音にディー・クルップスを感じざる得なかった。
この1stはその2ndと比べるとメロディアスでダークエレクトロや哀愁シンセ・ポップスな曲もあり大分落ち着いている。だが耳を惹くのはやはりディー・クルップスタイプの疾走感のあるインダストリアル・メタルな曲だろう。エレクトロニック・ハンマービートの上を疾走するスラッシュ・ギターにシンセベース……。ダークエレクトロの影響だろうか、トランシーなシンセメロディが良いアクセントになっている。
短い紹介文になってしまったが、ラムシュタイン、ディー・クルップスのエレボ直系のドライヴする熱きインダストリアル・メタルが好きな向きにはお薦めしたい一枚。

Dive - Concrete Jungle

Dive 2: Concrete Jungle + Extended Play (EP) + Extras

Dive 2: Concrete Jungle + Extended Play (EP) + Extras

ベルジャンEBMユニット「ザ・クリニック」の片割れことダーク・イヴァンスによるプロジェクトの2nd。
昨今のインダストリアル・リバイバルでその派生であった所謂「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」もまた見直されている昨今。2000年代半ばから後半にかけてその手のバンドも若い世代で出てきて、ファクトリー・フロアなんかがその急先鋒だろうか。
若い世代の特徴として「トランスやハードミニマルを通過した」があると思う。陶酔感のあるメロディにミニマルなグルーヴがエレボディのハンマービートと直線的なノリに融合しており、1980年代後半のそれとは大きく異なっているが、聴きこむうちにやはり「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」としか表すことしか出来ない音に仕上がっている。
一方の若い世代でIan Dominick Fernowが奏でるドロドロとして漆黒の……としか表現できないダーク・インダストリアルもある。本エントリで紹介するのはこのIan Dominick Fernowの原点だと思うようなアルバム。
ダーク・イヴァンスは1980年代初めからアブソリュート・ボディ・コントロール(以下:ABC)なるエレクトロ・ポップスバンドで活動していて、その流れを汲むザ・クリニックというEBM系バンドで活動していた超がつくベテラン。だがABCもクリニックもだが、聴いてみれば解るようにクラフトワーク的なエフェクトをあまりかけない平坦で音数を出来る限り減らした簡素なエレポップスで好きな人は熱烈に好むだろうが、自分にはクラフトワークを水で薄めたような退屈な音楽にしか聴こえなかった。
が、この名義ではそれが「……という夢を見たんだ……」という以前のイメージを完全に払拭する恐るべき内容。同時期のフロント・ライン・アッセンブリー、スキニー・パピー、Numbを三身合体したような……といえばイメージが湧くと思う。それでいて1980年代のノイズ・インダストリアルを思わす倒錯的で不健全なノリをも入っているのだから恐ろしい。
圧巻の漆黒エレボ及びビート・インダストリアル。Vatican Shadow、Prurient、そしてBlackest Ever Blackを好む向き、スキニー・パピーを好む向きには是非ともお薦めしたい一枚。

Dalhous - Will To Be Well

Will to Be Well

Will to Be Well

スコットランドエレクトロニカ系デュオの2nd。
レーベルがあのブラック・メタル、ドローン、ダーク・インダストリアル系の「Blackest Ever Black」から、ということで一部の向きには「ああ……」と思うだろうが、この二人組はレーベル「Blackest Ever Black」としてはかなり異色。
端的に表すと1990年代のワープを思い起こさせる「インテリジェント・テクノ」だろう。初期のオウテカボーズ・オブ・カナダの様なとても繊細でくすんだようなメロディ。1990年代の英国の(広義の)テクノはジャングル、ハード・ハウス、プログレッシヴ・トランスが台頭する一方でフロア向けではない家で聴くようなテンポも遅く、メロディアスなテクノもまた台頭していた。その音はデトロイト・テクノの英国的解釈といえばいいのだろうか。哀愁と浪漫に満ちたデトロイト・テクノを1970年代の(主にジャーマン)プログレと結びつけてしまったインテリジェント・テクノ。シーフィール、B12、ブラック・ドック、オウテカなどがその代表的なアーティストだ。そして、それらの音は1990年代後半からは「IDM」、「エレクトロニカ」と呼ばれるようになる。後の全盛ぶりはこの手の音楽を聴く向きならご存知だろう。
このアルバムもその1990年代前半のインテリテクノを思い起こさせるが、そこはレーベルがBlackest Ever Black。一味違う音像を魅せてくれる。Blackest Ever Blackは昨今のインダストリアル・リバイバルの大先鋒で、ルストモードやホワイトハウスの創始者であるウィリアム・ベネットのカットハンズという1980年代のインダストリアルシーンのど真ん中にいた人達やその雰囲気を引き継いだようなIan Dominick Fernowの各名義の音源を出している。
そういうことからこのアルバムは所謂「ノイズ・インダストリアル」の雰囲気をインテリテクノと結びつけている恐ろしき音楽。具体的に書くとルストモード、ノクターナル・エミッション、ヴァジリスク、カレント93、デス・イン・ジュンが奏でていた異形のアンビエントなインダストリアル・ミュージックと初期オウテカの融合。
前述した1980年代のインダストリアル・アーティストたちは廃墟となった工場、終業後の工場、深夜の都市から聴こえてくる音を聴かせてくれた。それをこのアルバムは初期オウテカ、シーフィールと融合させてしまった。げに恐ろしきアルバム。大推薦!買え!以上。

T.H.D - Outside In

Outside in

Outside in

アメリカのインダストリアル/EBMデュオの2nd。
1990年代に入るとEBMが衰退して欧州では主にトランス、米国ではインダストリアル・メタル及びロック、またはオルタナティヴへと移行かつ吸収されたことは何回かこのブログでも書いたと思う。しかし、米国、欧州ともに幾らかのレーベルはこの手の音楽を出し続けていた……というのもこのブログでも何回も書いてきた。
この二人組もその生き残りで1stは残党の巣窟ことアメリカのクレオパトラからで2ndもまたクレオパトラ。内容は前作と同様に「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」ではあるがクオリティが格段に上がっている。フロント・ライン・アッセンブリーの「Tactical Neural Implant」を思わすサイバーなエレボだった1st。しかしながら、どの曲もデモテープかと思うような音質で、粗削りながら光るものがある、などど言う自分でも「消費者風情が何を偉そうに語ってるのだろう」と思うことしかできないアルバムだった。
しかしどうだろうこの2ndの素晴らしい出来は。FLAをよりトランシーにしたサイバーでダークなアシッド・エレボ、殆どゴア、サイケデリック・トランスの様な曲、おどろおどろしいダーク・アンビエント、スキニー・パピーを思い起こさせる五月蠅き漆黒のインダストリアル・ビートもの。動と静が上手く機能した、アルバムを通して聴くことを可能としている。この頃のFLAはスラッシュ・メタルを取り入れ、エレボからは離れていただけにこの更新具合は当時のファンの溜飲を下げたことだろう。スキニー・パピーも休止状態であったから尚更だったに違いない。
1990年代前半のFLAが好きな向き、1990年代のエレボが好きな向きにはお薦めしたい一枚。なお近年、片割れのShawn Rudimanは幾つかのデトロイト・テクノ系のレーベルから音源を発表している模様。ダニエル・ベルのレーベル「7th City」からも一時期、音源を出してたようだ。