Click Click – Bent Massive
幾つかのエントリでゴス、ダークウェイヴとEBM、インダストリアル・ビートの相似関係を書いたが、このバンドもそれ。
NWの残党がEBMと呼び名を変えてPIASやWax Trax!、サード・マインド、ネットワークなどのレーベルから装いも新たに作品を連発してましたが、シスターズ・オブ・マーシーやダンス・ソサエティ、セックス・ギャング・チルドレンにしか聴こえない音源でリアルタイムで触れていた人の感想を訊きたい感があったりしますが、このアルバムもどう聴いてもダンス・ソサエティです。ダンソサのヴォーカルをニッツアー・エブのダグラスに変えたら……という感じです。
またヘヴィなハンマー・ビートやトランシーなシンセリフが挟まってくるのはフロント242っぽい点はEBM系のど真ん中な音。
ダークかつ耽美で哀愁のあるシンセメロディはダンス・ソサエティのそれだがヘヴィでハードなビートが肉体を躍らす。カサンドラ・コンプレックス、ネオン・ジャッジメントが好きな向きは買うべきだろう。
Cyberaktif – Tenebrae Vision
米国のWax Trax!から出ていた同アルバムをデジタルリマスタし、またリミックス、ヴァージョン違い、シングルに入っていた曲を集めたコンピが付いた二枚組。
コラボ……と書いたが、この頃のWax Trax!から出ていたコラボ系は殆どがスタジオで酒を飲みながら作ったような音源ばかりだったとか。
この作品もミニストリーかリヴォルティング・コックスがスタジオ作業している最中にFLAやスキニー・パピーの面々がビールやワインを片手に遊びに来ていただけなのかもしれない。そしてその最中に出来た音源集なのかもしれない。
翌日ミニストリーakaリヴォルティング・コックスのアルさんとポールさんが素面になった時に「昨日の飲み会、誰がいたっけ?」と思い出したらFLAやスキニー・パピーの面々だった……という感じだったのではないだろうか。で、テープを聴くとその面々の色が濃い音だったので彼らの新しい名義とした……。
なんでそんなことをつらつらと書いたのかというと、Front Line Assembly、Skinny Puppyにしてはあまりにも作りこんでない感がこのアルバムにはありありで妙に肩の力が抜けた朴訥とした曲が並んでいる。
かと言って品質が悪いわけでもない。かと言って傑作でもない。
曲単位だと良曲があるがアルバム単位で評価すると微妙な一枚。しかしFLA、スキニーの両ファンは買って損は無いと思う。
youtu.be
2021年良かったアルバムとかEP
ガビ・デルガド・ロペス亡き後、ロバート・ゲールが未発表のシーケンスやガビが鬼籍に入る前に録音していた音源をかき集めて、それを基に再構築したアルバム……らしい。
とはいってもガビの叫ぶようなヴォーカルが聴こえてくるわけもなく、シンセベース、タイトなドラムにガビの短いシャウトやブレス音、うめき声が乗っているだけ。曲によってはロバートがヴォーカルをとっているのもあるようだ。
しかし、それなのにも関わらずめちゃくちゃいいのは何故だろうか?まるで冥界からガビの霊を降ろしてきたような感じといえばいいのだろうか。
恐山に屯しているイタコの降霊術の様を録音したレコードがこの世に存在するらしいが、このアルバムこそそれだろう。実に恐ろしきアルバム。米国のシンセ・ポップスデュオの6th。
こういう音は2000年代前半のエレクトロクラッシュブーム前後によく聴いていたような覚えがある。レディトロン、ズートウーマンとか。
が、レーベルがDaisの所為かダークウェイヴ色が濃い。1980年代だったら4ADから出ていたでしょう。ザイモックスからギターを抜いた感じ。サイキックTV脱退組が結成したインダストリアル(として表すのも躊躇われるが……)ユニットの4th。
デジタルリマスタ盤に同アルバムのリミックス、ヴァージョン違い、デモ音源が付いたコンピ盤の二枚組となって再発。
この人たち、インタビュ記事を読むとアレイスター・クロウリーがどうたらこうたらと思いっきり神秘主義者たちなんですが、そういったコンセプトを上手く音楽に組み込んでます。
コンセプトが先行した挙句、凄い退屈……基、難解な音楽が聴こえてきたりするのだが、この人たちの音楽は(そういうコンセプトを入れているのにも関わらず)ポップかつバランス良くダークでニューエイジな音なので毎度関心させられる。
このコイルの人たちが居た初期のサイキックTVもそんな感じなのでお薦めしたいし、「インダストリアルってガー、ガー、ガッシャンって鳴ってるだけでしょ」という向きにも是非聴いてほしい。またコイルなんだけど。8thのデジタルリマスタ盤。
これもまた凄いゾ!IDMに接近していったアルバムらしいが、こんな音はオウテカでもボーズ・オブ・カナダでも作れないでしょう。
クロウリーとオウテカの共作って趣。どう表現していいのか解らない!カナダのインダストリアル、EBM系ユニットの2021年作。
2010年に出したアルバム以降、ブロステップやエピックトランスっぽいことを演ってマンネリ感を払拭しようとしている感があったが、どれも自分が聴いた限りでは不完全燃焼に終わったような覚えがある。
ゲームのサントラをFLA名義でも出していたが、(FLA名義で)この音は無いよなーと思っていた次第(ゲームのサントラとしては良いのだが)。
でもこのアルバムはEBM、インダストリアル・メタル全開で時に哀愁あり時にサイバーに疾走したりと魅せます。
同郷のインダストリアル・メタルバンド、フィアー・ファクトリーで激速ギターリフを弾き出すDino Cazares、EBMの提唱者フロント242のJean-Luc Demeyerも参加は伊達じゃない!
あと一曲だけだが、ハード・ミニマルの進化系シュランツの雄ことクリス・リービングがミックスで参加しているのは驚きました。クソ硬質な音像を聴かせてくれていたクリリンの参加はFLAをフルアーマー仕様に換装してくれた。
是非とも次のアルバムでは全編ミキシングをクリリンに任せたい感じ。米国のIDM系アーティストの4th。
前作も傑作だったが、本作も負けず劣らず。
一言で表すとデッド・カン・ダンスとティム・ヘッカーの融合という圧巻な内容。
1990年代前半のアンビエントっぽいニューエイジな趣もあるが前述した通りダークウェイヴな味付けがなされている。
まるで人気のない森を歩いているような錯覚にとらわれる。
2020年良かったアルバムとかEP
- アーティスト:Molchat Doma
- 発売日: 2020/11/13
- メディア: CD
ジョイ・ディヴィジョンがそのままニュー・オーダーを演っている……と表わせばいいのか。
イアン・カーティスが自殺しないまま、マーク・リーダーからハイエナジーやイタロ・ディスコの音源を渡されたらこうなっていたかも、と思わせるような音。
ヴォーカルがロシア語なのも面白いが時折、東欧っぽいメロディラインが聴こえてくるのもまた妙な味わいを醸し出して面白い。
3枚目になってよりイタロ・ディスコの様にいなたくなっているのも自分によし。あとYouTubeに上がっている1980年代の東欧や旧ユーゴの暗黒ニューウェイヴやシンセポップスに近い感じもある。
Shadow Of Fear [解説付 /国内盤](TRCP288)
- アーティスト:Cabaret Voltaire,キャバレー・ヴォルテール
- 発売日: 2020/11/20
- メディア: CD
とはいっても、1980年代末期からハウスに移行してその後はIDMをやったり。本作は1994年以来のオリジナルアルバム。また現在はステファン・マリンダーが抜けてリチャード・H・カークのソロになっている。
そのソロになってからの一枚目。聴く前は1990年代以降のキャブスやリチャードのソロ作群が浮かびIDM色が強いのかと思ったが一曲目からそれがイマジンブレイカー。
全く、1980年代後半のベルジャンニュービート!でインダストリアル色が濃かったニュー・ゾーンやゾース・オムモグを思い起こさせるような音。8thアルバム「Code」の後に出していたら上手くハウスに移行出来ていたのでは?と思えるような。後半になるとダヴっぽくなるのも心地良い。
detritirecords.bandcamp.com
イタロEBMアーティストの2ndEP。
以前のエントリでも書いた「Detriti Records」から。このレーベルは旧ユーゴ、東欧のダークウェイヴやEBMを出していて自分的にかなり要チェックやで!なんですが、このイタロも要チェックな音を出してマス。
彼のFBを見ると相当若いようでフェイバリットの中に旧ユーゴで1980年代に活動していたEBMグループ、デモリション・グループがあって驚きましたが(自分と同じようにYouTubeから見つけたのだろうか)、それを鑑みて彼の音を聴くと何故Detriti Recordsから出しているのかがより一層深みを増して理解できます。
1980年代後半、それまでのシーンとは一転して今まで聞いたことが無いような国から面白い音楽が出てきて、それが当時のダークウェイヴ、EBMシーンを形成していたが、このEPはその再来。
- アーティスト:Black Magnet
- 発売日: 2020/09/25
- メディア: CD
ゴッドフレッシュとクラウス・ラールセンのインメタPクルートを足してひたすらブラストしている超強烈なアルバム。
爆撃機が爆弾を落としながら超高速で上空を通過していくような感じ。激インダストリアル・ハードコア!
Casablanca Flamethrower [Explicit]
- 発売日: 2020/04/01
- メディア: MP3 ダウンロード
ジェノサイド・オーガンを擁するバリバリハードコアなパワエレレーベルからの発表。それに相応しいドロドロの暗黒かつハードなパワエレでこの名義としては久々の場外超特大ホームラン。
この人は元々メタルヘッズなのでこの手の音楽にしてはちゃんと展開があってそれが面白かったのですが、ここ数年は敢えてそのノリを(この名義では)抑えているような感じが聴こえてきたのだが、今作は久しぶりに元メタルヘッズの矜持を魅せてくれた。近作のヴァチカン・シャドウをインダストリアルに傾けたような感じもある。何にせよ暗黒インダストリアルですばら。
Persian Pillars Of The Gasoline Era
- アーティスト:Vatican Shadow
- 発売日: 2020/09/18
- メディア: CD
暗黒な喜太郎と呼べばいいのでしょうか。ニューエイジっぽさとルストモードやMBのような荒涼としたダークアンビエントが融合しちゃっている。
1980年代半ばから1990年代初頭のデペッシュ・モードのアルバムやシングルのB面に入っていたようなインスト曲を思い出してみたり。
Silent EM - Foreign States
detritirecords.bandcamp.com
アメリカのEBM、ダークウェイヴ系アーティストの1st。
フィジカルはなんとカセットテープで主にリリースする古のノイズ・インダストリアルやニューウェイヴ系インディレーベルといった趣がするドイツのDetriti Recordsから。
このDetriti RecordsというレーベルはダークウェイヴやEBMを主に出しているのだが、どの音源も辺境的でYouTubeに上がっている1980年代の東欧やユーゴスラヴィアのそれに酷似していて今自分にとって物凄い刺激を受けるレーベルの一つだ。現にアーティストやバンドも東欧や旧ユーゴの国々出身が多い。ここ数年一部で注目を集めているМолчат Домаはベラルーシ出身の暗黒波バンドだ。旧ユーゴ時代から活動し復活した(のか?)Psihokratijaはセルビアだ。英国、欧州の音にスラヴ、アラブ、ロシア系がミクスチャーされるという全く新鮮過ぎる音像を魅せてくれる。
が、このアーティストは米国のニューヨーク。でもこのレーベルから出ていることが解るようにまたこのアルバムも辺境的なEBMやダークウェイヴを嫌になる位に聴かせてくれる。前述したPsihokratijaが英詩で歌ったらこうなるかも……という感じ。エレクトロニックハンマービート、うねるシンセベース、メタル・パーカッションの上をダークで寒々としたメロディと朴訥としたヴォーカルが乗る。特にカセットの二本目(2020年ににこの表現を使うとは思わなんだ)からが凄い、メタル・パーカッションが良いアクセントになり味わいが深い。
スラヴ、アラブ、ロシア系が交差するとき……。
Twin Tribes - Shadows
2000年代前半に1980年代リバイバルとしてエレクトロ・クラッシュが隆盛しましたが、1980年代のフォースの暗黒面に関してはさっぱりだった記憶があります。
で、本エントリで紹介するはそのフォースの暗黒面であるダークウェイヴ。ジョイ・ディヴィジョン、バウハウス等のゴシック調のニューウェイヴサウンド。
ゴシックの由来が古の欧州で野蛮の限りを尽くしたゴート族から察するように、黒で全身を固めた服装、白塗りメイクに黒魔術、ペイガニズム等の今の世の中ではオルタナティヴな感性を重きに置くジャンルのようで、1980年代半ばから後半のフールズメイト誌を読むと黄泉だとか漆黒の世界だとかの文字が並んでます。その同誌が推していた(ようにしか読めない)And Also The Treesというバンドはフールズメイト誌やNEWSWAVE誌のインタビュで自分達の音楽を「(音楽シーン全体の)辺境みたいなものだ」と言い得て妙な表し方をしていたが、それがダークウェイヴというジャンルを物語っているような気がする。この二人組も大手DBサイト「discogs」の紹介文を読むと神秘主義や平行次元などペイガニズムな思想を持っているようだ。
She Past Awayのエントリでも書いたが、このアルバムもまたシスターズ・オブ・マーシー、ザイモックス、ダンス・ソサエティなどの打ち込みにリバーヴの効いたギター・リフにダンサブルな展開が満載。また暗黒で哀愁のあるシンセ・メロディも満載で泣かせるのが上手い。
しかし、She Past Awayを聴いた時にも感じたが、テクノやトランス、エレクトロ以降の音、という感じを受ける。ザイモックスやダンス・ソサエティがダークウェイヴからハウスに移行したのと逆にこの二人組はテクノやトランスからダークウェイヴに移行しているような感じを受けてしまうのが面白い。リアルタイム世代では無くて、後追いでザイモックスやフィールズ・オブ・ネフリム、エイリアン・セックス・フィーンド、セックス・ギャング・チルドレンを聴いてズブズブと暗黒に堕ちて往ったような感じ。
ザイモックス、フィールズ・オブ・ネフリム、エイリアン・セックス・フィーンド、セックス・ギャング・チルドレンや1980年代の4AD、Situation Two、Normal等のレーベルから出ていたような音源が好きな向き、また1980年代リバイバルでNWサウンドに触れた向きにもお薦めしたい。
Cardopusher - New Cult Fear
Boysnoize Recordsからのリリース。Boysnoizeと言えば何世代化は忘れたが、フレンチ・エレクトロの雄だという認識があり(レーベルの拠点はドイツ)、またディスコテイストなサウンドが主……という認識もあったが、これはエレクトロニック・ボディ・ミュージック!しかも1980年代末期から1990年代初頭のアシッド・ハウス+EBMのニュービートも有りで全編に亘って魅せてくれる。エレボ路線だったころのキャブスや漢三部作の時のDAFのような官能的なトラックもあり飽きさせないのが凄い。まぁ主宰者たるBoysnoizeも聴いてみると非常にEBMテイストが濃いパンキッシュなエレクトロを多く出しているようだ。
このカード売人なるアーティストはMurder Channel Recordsというハードコア・テクノ、ブレイクコア、ガバといった音源を主体に出すレーベルからもリリースしていたようで、その彼がエレクトロテイストの音源を出した際にEBM化するのも頷ける。なぜなら前述した時代にニュービートを出していたアーティストの一部はその後、ハードコア、ガバに流れて行ったからだ。Wax Trax!からEBM、ニュービートを出していたグレイター・ザン・ワンがその代表だろうか。後にGTOと改名し、また数多の名義でハードコアとガバを輩出して行きダッチ・ハードコアの旗手となった。最近、その片割れがテクノヘッド名義で復活したようだ。
ジャスティスの1stやBoysnoizeなどなど2000年代後半に現れたフランスのエレクトロ系アーティストを見逃していたが、非常にEBM色の強い音像を構築していたことにこのアルバムで気が付かされた。今後、要チェックなレーベルが増えたことに(資金的な意味で)嬉しい悲鳴を上げながらこのアルバムをお薦めしたい。