Dalhous - Will To Be Well

Will to Be Well

Will to Be Well

スコットランドエレクトロニカ系デュオの2nd。
レーベルがあのブラック・メタル、ドローン、ダーク・インダストリアル系の「Blackest Ever Black」から、ということで一部の向きには「ああ……」と思うだろうが、この二人組はレーベル「Blackest Ever Black」としてはかなり異色。
端的に表すと1990年代のワープを思い起こさせる「インテリジェント・テクノ」だろう。初期のオウテカボーズ・オブ・カナダの様なとても繊細でくすんだようなメロディ。1990年代の英国の(広義の)テクノはジャングル、ハード・ハウス、プログレッシヴ・トランスが台頭する一方でフロア向けではない家で聴くようなテンポも遅く、メロディアスなテクノもまた台頭していた。その音はデトロイト・テクノの英国的解釈といえばいいのだろうか。哀愁と浪漫に満ちたデトロイト・テクノを1970年代の(主にジャーマン)プログレと結びつけてしまったインテリジェント・テクノ。シーフィール、B12、ブラック・ドック、オウテカなどがその代表的なアーティストだ。そして、それらの音は1990年代後半からは「IDM」、「エレクトロニカ」と呼ばれるようになる。後の全盛ぶりはこの手の音楽を聴く向きならご存知だろう。
このアルバムもその1990年代前半のインテリテクノを思い起こさせるが、そこはレーベルがBlackest Ever Black。一味違う音像を魅せてくれる。Blackest Ever Blackは昨今のインダストリアル・リバイバルの大先鋒で、ルストモードやホワイトハウスの創始者であるウィリアム・ベネットのカットハンズという1980年代のインダストリアルシーンのど真ん中にいた人達やその雰囲気を引き継いだようなIan Dominick Fernowの各名義の音源を出している。
そういうことからこのアルバムは所謂「ノイズ・インダストリアル」の雰囲気をインテリテクノと結びつけている恐ろしき音楽。具体的に書くとルストモード、ノクターナル・エミッション、ヴァジリスク、カレント93、デス・イン・ジュンが奏でていた異形のアンビエントなインダストリアル・ミュージックと初期オウテカの融合。
前述した1980年代のインダストリアル・アーティストたちは廃墟となった工場、終業後の工場、深夜の都市から聴こえてくる音を聴かせてくれた。それをこのアルバムは初期オウテカ、シーフィールと融合させてしまった。げに恐ろしきアルバム。大推薦!買え!以上。

T.H.D - Outside In

Outside in

Outside in

アメリカのインダストリアル/EBMデュオの2nd。
1990年代に入るとEBMが衰退して欧州では主にトランス、米国ではインダストリアル・メタル及びロック、またはオルタナティヴへと移行かつ吸収されたことは何回かこのブログでも書いたと思う。しかし、米国、欧州ともに幾らかのレーベルはこの手の音楽を出し続けていた……というのもこのブログでも何回も書いてきた。
この二人組もその生き残りで1stは残党の巣窟ことアメリカのクレオパトラからで2ndもまたクレオパトラ。内容は前作と同様に「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」ではあるがクオリティが格段に上がっている。フロント・ライン・アッセンブリーの「Tactical Neural Implant」を思わすサイバーなエレボだった1st。しかしながら、どの曲もデモテープかと思うような音質で、粗削りながら光るものがある、などど言う自分でも「消費者風情が何を偉そうに語ってるのだろう」と思うことしかできないアルバムだった。
しかしどうだろうこの2ndの素晴らしい出来は。FLAをよりトランシーにしたサイバーでダークなアシッド・エレボ、殆どゴア、サイケデリック・トランスの様な曲、おどろおどろしいダーク・アンビエント、スキニー・パピーを思い起こさせる五月蠅き漆黒のインダストリアル・ビートもの。動と静が上手く機能した、アルバムを通して聴くことを可能としている。この頃のFLAはスラッシュ・メタルを取り入れ、エレボからは離れていただけにこの更新具合は当時のファンの溜飲を下げたことだろう。スキニー・パピーも休止状態であったから尚更だったに違いない。
1990年代前半のFLAが好きな向き、1990年代のエレボが好きな向きにはお薦めしたい一枚。なお近年、片割れのShawn Rudimanは幾つかのデトロイト・テクノ系のレーベルから音源を発表している模様。ダニエル・ベルのレーベル「7th City」からも一時期、音源を出してたようだ。

The Berzerker - Dissimulate

Dissimulate

Dissimulate

オーストラリアのインダストリアル・デス・メタルバンドの2nd。
ガバというジャンルの起源は幾つかあるが、所謂シカゴ・(アシッド)ハウスのゲットーのりが強かった音、例えばバム・バム、ロバート・フッド、アルマンド、レーベルでいうとトラックス、ダンスマニア辺りだろうか。上品の欠片すら持ち合わせていない粗野なメロディにラップ、そしてBPMが普通のハウスとは明らかに異なる速さでそのゲットーぶりを示していた。
そのゲットーハウスが北欧(オランダ)に渡り、更に暴力的にディストーションがかかってBPMが速くなった所謂「ガバ・ハウス」が産まれた。元々メタルが盛んな北欧、よりうるさく、暴力的な味付けをしたのは必然だったのだろう。しかし、音楽の世界も日進月歩。そこで進化が止まるはずも無く、その進化の過程(というか慣れ果て)が本エントリで紹介するアルバム。
端的に表すとスラッシュ・ガバ……といったところ。デジタル・ハードコアはガバとメタルを融合させたけど、この狂戦士達が吐き出す音は更にうるさく、速く、暴力的に更新させている。ガバはハッピー・ハードコアというダンサブルでポップな方向も生んだが、全くダンサブルでない更に暴力的な方向性をこの狂戦士たちは着目したようだ。
ブラストビートと超高速ガバ・キックが交差するとき……。

V.A. - 21st Century Quakemakers

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イタリアはフィレンツェを拠点に置く、インダストリアル/EBM系レーベル「Contempo Records」のサブレーベル「BBAT」のコンピレーションアルバム。
このレーベルは同時期のエレボレーベル、例えばWax Trax!、PIAS等と共にシーンの立役者を多く輩出しており、その一番はパンコウだろう。ON-Uのボスことエイドリアン・シャーウッドをPちゃんとエンジニアに迎えた1stは同じくシャーウッドをP及びエンジニアに迎えたミニストリーの2ndと共に所謂「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」を作り上げた一枚だ。そして、パンコウは他にも幾つかの変名でも音源を出しており、その一つが本エントリで紹介するコンピで聴くことが出来る。
この時期(1989年)はEBM全盛期といった模様でフロント242がロンドンでライヴをすれば行列がビルを一周するほど出来たりする有様だったよう。このコンピもその全盛期ぶりを示すものだ。
冒頭のパンコウで始まって、タックヘッドを思わすハードエレクトロ・ダヴのビートニグス、シャーウッドがPのRinf、レーベル4ADに関わったり、SPK、フィータスに居たメンバーから成るHeavenly Bodies、パンコウの変名ザ・ハードソニックボトムズ3、The Jesus And Mary Chainに居たDouglas HartのAcid Angels、discogsにも一切面子などの情報が載ってないGroupietempleといった面子が最盛期のエレボを奏でている。
がこのコンピの白眉はやはりパンコウの変名「The Hardsonic Bottoms 3」だろう。パンコウのハードコア・ダヴにニッツアー・エブ系の熱き電子肉体音楽を更にブースト、ドライヴさせたような音は今聴いても圧巻。ジャケもフィータスを思わす所謂「ロシア構成主義」で怪しげなノリも加味していて面白い。
PIASから出ていたコンピ「This Is Electronic Body Music」を超える出来。1980年代のエレボを好む向きにはお薦めしたい一枚。入手は困難を極めるだろうが、貴方の街のブックオフで血眼になって探して欲しい。

Death Grips - The Powers That B

The Powers That B

The Powers That B

アメリカのダブステップ、ヒップホップグループの5th、6thが収録された二枚組。
端的に言うとポスト・テクノアニマル。2000年代半ばから頭角を表わし始めたダヴステップだが、初期のパイオニア達の音を聴くとヒップホップ色とインダストリアル色が強い。現在のEDM紛いのブロステップとは異なっていることに気が付かされるハズだ。
このグループもその初期のダヴステップ……つまりテクノアニマルに近い音像を魅せてくれる。ゴッドフレッシュのダークなインダストリアル・ハードコアとダヴ、ヒップホップの融合から産まれたのがテクノアニマルなら、このデス・グリップスはその子供たちだろう。
デジタル・ハードコアやブレイクコアを思い起こさせるズタズタなエレクトロニック・ビートの上をこれまたズタズタに歪んで暴れまわるベースラインに耳を劈くようなノイズ・メロディ、そしてハードコア・ダヴ加工されたヴォイスもまた暴れまわる。
暗黒でウルトラ暴力感じるダヴステップ(と呼んで良いのかは知らないが、自分はあえてこのジャンルに収めたい)は貴重だ。スコーン、JKフレッシュ、Prurient、レーベル「Blackest Ever Black」を好む向き(俺だよ、オレ!)は買わないと!

The Curse Of The Golden Vampire - Mass Destruction

Mass Destruction

Mass Destruction

ゴッドフレッシュのジャスティン・K・ブロードリック、ザ・バグのケヴィン・マーティンからなるユニットの2nd。
前作はアレック・エンパイアも参加してレーベルもアレック主宰のデジタル・ハードコア・レコーディングスからのリリース。音もBPMは抑え気味ながらもデジタルでハードコアだった1st。しかし、本作はエレクトロニカ系のキッド606からダヴステップ、ヒップホップユニットDeath GripsのZach Hill、Mike Patton、そのMike Pattonがいるオルタナ系ロックバンドのFaith No More、ハードコア・パンクバンドのUnsaneまでいるというカオスなレーベルからのリリース。しかもテクノアニマルで暗黒ダヴステップを魅せてくれたジャステインとケヴィンにタッグにはそれを期待せざる得ない。
が、冒頭からズタズタな高速ブレイクビーツに歪みまくりのインダストリアル・ノイズにスラッシュ・ギター、デス・ヴォイスが乗っかるというウルトラ暴力の趣を感じるデジタル・ハードコア。この作品こそアレック主宰の「デジタル・ハードコア・レコーディングス」から出せば良かったのでは?と思うくらいに飛ばしまくっている。スラッシュ・メタルのスレイヤーとパワエレのホワイトハウスにデジタルハードコアのアタリ・ティーンエイジ・ライオットを足しっぱなしにしたような音が全編に亘って続くという圧巻しか覚えないアルバム。マイケル・パラディナス主宰のプラネットμから出ていても可笑しくない暴力ブレイクコアだが、そこはインダストリアル出身。ミニストリーのインダストリアル・スラッシュも臭う音はやはりカオスなレーベル「Ipecac Recordings」から出るべきだろう。
デジタル・ハードコアをかのムックが「ミニストリーの「型」をとっぱずして、ネイキッド・シティの「知性」を捨て去ったところのもの」と評したが、このアルバムはそれに当てはまるだろう。

Skold - The Undoing

Undoing

Undoing

元KMFDM、元Marilyn MansonのメンバーことTim Skoldのソロプロジェクトによる3rd。
泣きのインダストリアル・ロック……と呼びたい出来。このTim Skoldがいた1990年代後半から2000年代初頭のKMFDMは哀愁度が高く、イケイケのダンス・メタルからは離れていて、当時ファンからどういう評価を受けていたのか全く興味があるが。まぁ泣いてます本作も。
泣きのメロディといえばナイン・インチ・ネイルズもキメで入れてくるが、このTim Skoldのそれはクサい。北欧のメタルバンドの泣きのメロディみたくクサい。だから演歌みたいなベタベタが気恥ずかしくなる時もあるが、それが強烈なオリジナリティを発揮しているのが面白い。流石、スウェーデンのヘアー・メタルバンド、「Shotgun Messiah」にいた人は違う。この時のキャリアが活きている。
とはいえ前作の泣きの一手を推し進めたものより、今作はブロステップっぽい歪んだデジタル・リフやちょっと前のびりびりとしたエレクトロを取り入れかつ前面に推しだして来て、異なった趣も魅せてくれる。そういうところからエレボに回帰している近年のKMFDMに近い部分もあったり。でもメロディは哀愁で泣いてるから全体的には(KMFDMとは)違うのだよね。
前作よりもデジタル・リフを前面に推しだして来た「泣き」のインダストリアル・ロック。趣は異なるがナイン・インチ・ネイルズ、KMFDMが好きな向きにもお薦めしたい一枚。今年のベストアルバム!買え!以上!