Xorcist - Damned Souls

Damned Souls

Damned Souls

アメリカのエレクトロ・インダストリアルグループの1st。
以前に「エレクトロニック・ボディ・ミュージックは1990年代に入ると霧散していった」と書いた。しかし、実はまだそれなりに健在だった(これも以前に書いたが……)。本エントリで紹介するアルバムもその健在ぶりを示すものだ。
だが、欧州のそれと比べると米国のそれは同じようでいて全く異なっている。明らかに1980年代のエレボディとの変更点が見られない。それもスキニー・パピータイプのダーク・インダストリアル、ポジティヴ・パンク味のエレボディ……まるでその雰囲気をそのままに引き継いでいる。ニュービートからのトランスを取り入れた欧州のエレボディとは全く趣が異なっている。まぁこの手のジャンルを聴き慣れていない人には同じにしか聴こえないとは思うが。
これは欧州全体を襲ったアシッド・ハウス、その後のトランスの波がアメリカまで届かなかったせいなのかもしれない。欧州のフロント242を始めとするPIAS勢はWax Trax!がライセンスリリースしていたためアメリカにも届き人気を博し米国でも同レーベルにいたミニストリーのメンバー+αから成るリヴォルティング・コックスらが盛り上げた。が同レーベルはアシッド・ハウスまではカバーしていなかった。また同レーベルからいくつかの変名で作品を出していたミニストリーが「インダストリアル・メタル」というジャンルを確立させかつ大人気となったためもあるだろう。この「インダストリアル・メタル」はその後にナイン・インチ・ネイルズらが現れて一大ムーブメントと化すのだから……。
しかし、今は2016年。古いとか新しいとか無問題で聴けるのでこのアルバムはうん、よし、おれによし、だ。スキニータイプの暗黒エレボディ、インダストリアルが妖しく魅せる好盤。なのでその辺りの音が好きな向きは買っても損は無いと思う。お薦め。


Swans - Cop/Young God - Greed/Holy Money

Cop/Young God/Greed/Holy Money

Cop/Young God/Greed/Holy Money

アメリカのオルタナティヴバンドの2ndから4thとEPを収録した二枚組。
以前、紹介したと思うが、それはGreed/Holy Moneyの二枚目の方。本エントリでは一枚目のCop/Young Godを紹介したい。
パンクの波が落ち着いて、ポスト・パンクに移った時、パンクの精神はそのままにしてその音楽性は所謂「ロック」から離れた多様なものになっていった。このバンドがその最たるもので、ジョイ・ディヴィジョンを思い起こさせるハンマー・ビートにノイバウテンやテスト・デプトみたくメタル・パーカッションを被せてくる。そう表わすと、同時期のディー・クルップスを思い浮かべるだろうが、エレクトロニックなシーケンスは希薄でやはりジョイ・ディヴィジョンのパンクが優勢で趣は異なる。また大きく異なるのがスローな部分だろうか。テンポをグッと落として重さを表現することを追求している。
そう!この重さこそスワンズの特徴だろう。まるで鉄骨が高層ビルから落下して地面に着いた際に轟くメタル・パーカッション、性急の欠片すら感じないゆっくりとそして力を込めて振り下ろされるハンマー・ビート……。その全てが重さを表現することに成功している。マイケル・ギラの呪術的な叫びもまたそれを後押しする。
後に出てくるジャンク勢の原点が此処に……。インダストリアル・メタルな向きはゴッドフレッシュの原点を見るだろう。ちょうお薦め。買え!以上。

Peter Rehberg - Work For GV 2004-2008

Work for Gv 2004-2008

Work for Gv 2004-2008

Megoなるレーベルを主宰する英国出身のPeter Rehbergによる2004から2008までの音源を集めたコンピレーションアルバム。
このMegoなるレーベルはFenneszとかを出してて「エレクトロニカ」レーベルだと私は認識しとったのですが、Megoレーベルのカタログを眺めているとBruce GilbertとGraham LewisのDomeとそのBruce Gilbertのソロ、パン・ソニックのMika Vainio、Prurient、そしてKTLらが作品を出しており、認識を改めなくてはいけないようだ。
自分はこのPeter Rehbergという人の音は某メタル雑誌のクロスレビューで栄えある4点を記録したSunn O)))のStephen O'Malleyとのタッグから成るKTLだった。この名義では1980年代のホワイトハウスを思い起こさせるようなギターのフィードバックノイズからのハーシュ・ノイズにエレクトロニカでトランシーな電子音が絡むというネオ・パワーエレクトロニクスと呼びたいくらいの驚きを聴かせてくれた。静から始まって徐々にギターのフィードバック・ノイズとエレクロニック・メロディがブーストしてくる震えが来るほどにドラマチックな展開は2000年代半ばのエレクトロニカシーンに於いては異端しか感じなかっただろう。この音をメディアではKTLをドローンとかブラック・メタルと表わしていた。
この名義でもノイズ・インダストリアルは健在。KTLほどではないがハーシュ・ノイズを聴かせてくれる。というよりもKTLからギター・ノイズを引いた感じといえば伝わるだろうか。そう書くとヴォリュームが足りない音だと思う向きがいるだろうが、そんなことはなく、よりメロディアスでドロドロとしたダークさが強調され、かつクリアな音で魅せてくれる。デス・イン・ジューンやカレント93がエレクトロニカを演っているような音だ。
エレクトロニカとインダストリアルの中間で橋渡し的なものに仕上がっていて、エレクトロニカ、インダストリアル、どちらの向きにもお薦めしたい一枚。勿論KTLを好む向きにもお薦めだ。

Borghesia - Dreamers In Colour

Dreamers in Colours by Borghesia (1991-05-03)

Dreamers in Colours by Borghesia (1991-05-03)

ユーゴスラヴィアEBM系バンドの7th。
ライバッハと並んで旧ユーゴのインダストリアル及びEBMシーンを盛り上げたバンド……といってもこの国は(アンダーグラウンドだけど)多くのインダストリアル系バンドがひしめいており、本エントリで紹介するバンドはその代表みたいなものだ。フロント242、ネオン・ジャッジメントらがいた大手の「Play It Again Sam Records」、略してPIASから出していたので西側たるこの日の出国でも入手できることがその代表たる証左。
しかし、このバンドはライバッハと比べると割とストレートにエレボディしている感じ。しかも後ろにポジティヴ・パンクがあるような。隣国のイタロ・ボディのパンコウなんかにも近い朴訥としていてハード・ロッキンなボディ・ミュージック。まぁMVやジャケのデザインを眺めていると割とポリティカルなメッセージを訴えているのだけど。
あとこの頃にしては珍しくエレボディ。前作はハウスやヒップホップの影響があったりしたけど、本作は前述した通りハード・ロックなシーケンスを多用する「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」。クラフトワークをサンプリングしたりしてるのもまたそれを際立たせる。またアンビエントな曲は1980年代後半のザイモックスやキリング・ジョークみたいだ。
パンコウやクリニックなんかの素朴かつ朴訥としたエレボディ好きは必聴の一枚。アマゾンでは高値がついているがディスク・ユニオンで見つけることが出来ればそんなに値が張ってはいないと思うので探してみて欲しい。

Indus Bonze - 土着

土着: Dotyaku (Native)

土着: Dotyaku (Native)

日本のアーティストの1st。
ここ5年で所謂1980年代の「ノイズ・インダストリアル」な音をクラブミュージック、つまりダンスミュージックで実践するものが見受けられるようになった。このアルバムもそういう流れから産まれてきたのかは解らないが昨今の(ダンス音楽における)「インダストリアル・リバイバル」に当てはまるだろう。
ここで前述した1980年代の「ノイズ・インダストリアル」について書きたい。このジャンルはスロッビング・グリセルのジェネシス・P・オリッジが立ち上げた「インダストリアル・レコーズ」や彼の発言から勃興したジャンルで、その初期は後にパワー・エレクトロニクスと呼ばれるようなパンキッシュでノイジーなものが多く、折からの「ヘイト&ウォー」と同調するようなジャンルだった。
しかし、1980年代を過ぎるとキャバレー・ヴォルテールを筆頭によりダンサブルでポップな聴きやすい音を目指すようになっていく。がホワイトハウス、ラムレーなどはその流れに反発して旧来のパンクテイストのノイズつまりパワーエレクトロニクスを作り上げる。サイキックTV、テスト・デプトらもキャブスの流れに乗り、踊りたくなるようなかつポップなインダストリアルへと移行していった。
このアルバムの話に戻ると、その各々のインダストリアルバンド達がダンサブルな音に移行しようとしていた過渡期的な音をフィーチャーしたアルバムに自分には聴こえる。そこに2000年代のブレイクコアやゴルジェを足した様な音だ。SPK主宰の「サイドエフェクト」から出していたハンティング・ロッジ、アラブ音楽とインダストリアルの融合を試みたムスリムガーゼ、同じく中近東の音を取り入れていたエスプレンドー・ジオメトリコなどのトライバルなノリを暗黒的なインダストリアルに注入していた1980年代半ばから1980年代後半の音にこのアルバムは近い。またエレボディ系レーベル「KKレコーズ」にいたサイキック・ウォリアーズ・オヴ・ガイアのトライバルな音像にもまた近い。
タイトルが「土着」とはよく言ったもの。怪しげな民族インダストリアル・ダンスに震えが来る。ここ最近の新譜ではベスト!買え!以上!

AA= - #5

#5 (初回限定盤)

#5 (初回限定盤)

THE MAD CAPSULE MARKETS上田剛士によるプロジェクトの5th。
自分はこのアルバムしか持っていなく、かつ過去のアルバムを聴いていないので過去作がどういうことなのかが解らないが、このアルバムは凄いっす。インダストリアル・メタル、ブレイクコア、ガバ、デジタル・ハードコア、果てはデジタル・ロックまでありとあらゆる「煩い電子音楽」が満載。
MAD CAPSULE MARKETSは全部を聴いてきたわけではないが、デジタル・ハードコアやジャングルといったジャンルをロックと融合させていた。しかし、このプロジェクトは更にうるさきガバ、ブレイクコアを取り入れることで更なる高みを魅せてくれる。またフィアー・ファクトリー、バーサーカーといったインダストリアル・メタル以降のメタルをも取り込んでいるのが恐ろしい。フィアー・ファクトリーのミニストリーのインダストリアル・スラッシュを極限まで拡大した無機質な音楽、バーサーカーデス・メタルとオランダ・ガバをミックスして狂気しか感じない音楽……。
この各ラウド・エレクトロニック・ミュージックを取り入れながらも一貫した音にはゴッドフレッシュのジャスティンの各プロジェクトを思い起こさせる。ハードでうるさい電子音楽を好む向きは必聴のアルバム。買え!以上!

E-Craft - The Roots

The Roots

The Roots

ドイツのEBMバンドのベスト盤。昨日に引き続き「EBM Kult Klassiker!」シリーズ。
ドイツのエレボディといえば真っ先に挙がるのがDeutsch Amerikanische FreundschaftことDAFだろう。このバンドもご多聞に漏れずDAFなのだけど、それで終わらすにはもったいないのでもう少し書いてみたい。
所謂「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」を作り上げたのが冒頭にも挙げたDAFだが、もう一つ挙げたいのがディー・クルップスだ。ディー・クルップスはDAFと比べると旧来のバンド形式なので音数も多く、(音数を)削ぎに削ぎ落としたDAFからすると趣が異なる。メタル・パーカッションやインダストリアル・ノイズを多用した音作りは比べるなら同じくドイツのEinstürzende Neubautenが最適だ。
しかし、ディー・クルップスの1980年代の音源を聴けば解ると思うが、ノイバウテンのそれとは違いダンサブルかつグルーヴィーに疾走していく「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」なのだ。DAFノイバウテンを融合させたのがディー・クルップスなのかもしれない。
盤の紹介に戻ると、前述した通りDAFなボディ・ミュージックなのだが、1980年代のディー・クルップスでもある。というかクルップス色の方が強い。この時期(1990年代半ば)のクルップスは1990年代初期からの「インダストリアル・メタル」に傾倒しており、様々なスラッシュ系のメタルバンド達とコラボするなど以前の彼らからは推理することが出来ないバンドになっていた。
このバンドはその空いたポストを埋める様なポスト・クルップスだ。しかし、デペッシュ・モードを思わせる様な艶めかしく哀愁のあるエレクトロ・ポップスを挿し込んでくるなど、只のクルップスフォロワーに留まらない音を魅せてくれる。
メタル・パーカッションに性急なエレクトロ・ハンマー・ビートの上をうねるアシッド・シンセ・ベースに陶酔感あるシンセメロディが疾走し、それに合わせてヴォーカルが吠える……そんなニッツアー・エブ、(1980年代の)ディー・クルップスが好きな向きは必聴の一枚。お薦め。