Mastertune - No Help!

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ドイツのEBMグループの1st。
端的に表そうが、迂遠で表わそうが「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」。もうそれで本エントリは終わってしまうのだけど、もう少しだけ語りたい。
このアルバムが発表されたのは某DBサイト曰く1995年。この頃はもう欧州を席巻したトランス及びジャーマン・トランスも下火になって、それまでジャーマン・トランスに収まっていた、ゴア・トランス、サイケデリック・トランスが台頭して来た時代。同時にジャングル、ブレイクビーツ・テクノと呼ばれていたものがレイヴ寄りからベットルームで聴くような音楽へと移行し「ドラムンベース」というジャンル名になり、定着したのもこの辺りだろう(この解釈に異論がある向きは多いと思うので、私見として読んで欲しい。悪しからず)。
その時代にこのアルバムである。……少し話は変わるが1990年代半ば、家庭用ゲーム業界はプレイステーションセガ・サターンといった所謂「32bit機」へと移行し、ポリゴンで表わされた3Dゲームがシーンを賑わせていた。しかし、ソフトメーカーによっては旧ハード、つまりスーパーファミコンで新作を出しており、その存在感を示していた。
このアルバムはその旧ハードで全きの新作を出していたメーカーみたいなものだ。しかし、消えゆく旧ハードの新作ゲームが目新しさを微塵も感じさせなかったように、このアルバムもフロント242の黄金期をなぞっているのみ。が、衰退期に出されたゲームがぱっと目に見える新鮮さは無い替わりにハードの限界の限界まで追求したようなものが多く、それが胸を打つ。具体的なソフトを挙げれば、「聖剣伝説3」だろうか。職人芸ともいえる緻密かつ凝ったドット絵がひたすらに胸を打った。このアルバムもまたその限界性に追求しており、EBMというジャンルでまだできることがないか、という模索の軌跡を聴かせてくれる。
フロント242の黄金期、1980年代末期のインダストリアル寄りのニュービートが好きな向きは買って損は無!時代錯誤を恐れない漢たちの魂の輝きを聴ける!

KTL - Ⅳ

IV(紙ジャケット仕様)

IV(紙ジャケット仕様)

アメリカのドゥーム/ドローン・メタルバンドSunn O))のStephen O’MalleyとIDM系レーベルの中でも異色過ぎるEditions Mego主宰のPeter Rehbergから成るユニットの4th。
前作「2」のスラッシュ・ドローンな音像が圧巻で、もうココまで逝ってしまうと、後は何を表わしたらいいのだろうかという極北にして最北端でリアルタイムで聴いた時は解散するのでは?と思った位。
だが続きましたこのデュオは。しかし、本作は前作のスラッシュさは皆無でひたすらダークかつ不穏なドローン、ノイズ・アンビエント。あとひたすら重い。この人達にしては珍しくドラムを入れてたりするのだが、それも今作の重さを表わすのに一役買っている。
でもこの重さ……どこかで聴いたことがあるな……しかし、思い出せない……。そんな小骨が引っ掛かった様な気分を聴くたびに感じていたのだけど、先日思い出しました。そう、ゴッドフレッシュだ。
ゴッドフレッシュはナパーム・デスにいたメンバーをフロントマンとしているインダストリアル系メタルバンドだが、その手のバンドとは全く異なっている。元々ナパーム・デスにいたくらいだから違ってて当然なのだけど、ゴッドフレッシュは荒涼、退廃、ゴシックという三つの重さに彼らが好きであろう(ジャスティンはラムレーのTシャツを着ているくらいだ)パワー・エレクトロニクスが合わさっている。それでいてドローンなノリが全体に亘って続いているのだから異常過ぎる。この異常ぶりは同じくインダストリアル・メタルに分類されているKMFDMやナイン・インチ・ネイルズを聴いてみると解ると思う。
ゴッドフレッシュからデス・ヴォイスとメタリックギターを引いたようなひたすらに荒涼、退廃な雰囲気が満載のインダストリアル・ドローン。中二病的な妄想に浸るには最適の音楽だろう。お薦め。

The Cassandra Complex - Satan, Bugs Bunny, And Me...

Satan Bugs Bunny & Me

Satan Bugs Bunny & Me

イギリスのEBM系バンドの4th。
「西のWax Trax!、東のPlay It Again Sam Records」と呼ばれている程のEBM系レーベルの総本山としてこの二つのレーベルが1980年代後半に在ったのだけど、その実、様々なジャンルの音を出していた。
このバンドは金字塔的なコンピレーションアルバム「This Is Electronic Body Music」にも収録されていて、その一派とされることが多い。しかし、このアルバムを聴いてみても解る通り所謂「ポジティヴ・パンク」(以下:ポジパン)。
デジタルビートの上をサイケデリックなファズギターやこれまた耽美でネオサイケなキーボードが時に絡み時に疾走していく。ヴォーカルもエレボ系にありがちな濁声ではなくジョイ・ディヴィジョンを思わすヴォーカルスタイル。
この音に一番近いのがシスターズ・オヴ・マーシーだろうか。ポジパン御三家といえばセックス・ギャング・チルドレン、ザ・サザン・デス・カルト、ダンス・ソサエティらがいたが、その後続としてシスターズ・オブ・マーシーがいた。マシーン・ビートに耽美なメロディとヴィジュアルが特徴的で数多のフォロワーを産んだ。
本エントリーで紹介するバンド「The Cassandra Complex」もそのシスターズの眷属だろう。マシーナリィな美学とゴシックが交差する音。またシスターズよりもデジタル・リフを前面に出した音像はEBMのコンピに収録される所以か。
某音楽雑誌のインタビュでシスターズ・オブ・マーシーのアンドリュー・エルドリッチは自分たちの音を指して「ニール・ヤングとフロント242を足して2で割った様なバンドなんだぜ」と語っていたが、このカサンドラ・コンプレックスは2で割ってない音だろう。入手は困難を極めると思うが、貴方の街のブックオフをくまなく探して欲しい。お薦め。

PSIHOKRATIJA - Diskografija 1988-1991

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ユーゴスラヴィアのダークウェイヴバンドの1988年から1991年までの音源を集めたコンピレーションアルバム。
唐突だが、YouTubeのDronemf S.というアカウントをご存じだろうか?ご存知なければ、是非とも検索して欲しい。なぜなら、本エントリはこのアカウントを抜きにしては語れないからだ。
1970年代後半に勃興したニューウェイヴ、パンク、インダストリアルは1980年代も半ばになるとそれまで先進国の主要都市だけだったものが全世界へと広がっていく。特にインダストリアルはそれまで話題にも上がらなかった国や都市から出てきた。またエレクトロニクスを主とする音もだ。
このバンドはその話題にも上がらなかった国、旧ユーゴから出てきた。旧ユーゴは「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」と呼ばれている程の多民族国家で、このバンドは(当時は)セルビア社会主義共和国(現在はセルビア共和国)出身のセルビア人のよう。
自分はセルビアの音楽は全く知らないが、このコンピを聴くとどう表わしていいのか悩んでしまう。確かに、シスターズ・オヴ・マーシー、セックス・ギャング・チルドレンなどの所謂「ポジティヴ・パンク」と呼ばれていたダークウェイヴ系の音……だが、大きく異なっているのはこの人達が居た国の所為なのかは解らないが、同時期に旧ユーゴから出ていた、ライバッハ、ボルゲイジアの様に「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」してしまっている。
そこはかとなく聴こえてくる共産主義的な雰囲気やマーチしてしまうビート……つまりはハンマービートが鳴りライバッハと同じくエレボしてしまっている。そしてポジパンなゴスな雰囲気も相まって、異形すぎる。
しかしながら、このような異形の音楽は当時、同じような旧共産圏(ラトビアとか)からも多く出ていたことがDronemf S.氏が上げている音源から知ることが出来る。ノイバウテンのようなインダストリアル・ビート、ジョイ・デイヴィジョンのようなポスト・パンク……しかし、そのどれもがおかしい。模倣する視点が明らかに違っている。
ボルゲイジアがセックス・ギャング・チルドレンやシスターズ・オヴ・マーシーを演ったらこうなるかもって趣。ゴスとエレクトロニック・ボディ・ビートが交差するとき……。
ちなみにココ(http://www.pmkrecords.com/psihokratija-u-teatru-misterije-1991-pmk032-2016/)から買えるので興味を持たれた向きは是非!

youtu.be

Muslimgauze - Souk Bou Saada

Souk Bou Saada

Souk Bou Saada

英国出身のアーティストによる2012年発表のアルバム。
1999年に鬼籍に入っているのに、コレ如何に?と思って調べたら、またしても彼が遺した大量の未発表音源(今回はアルバム単位だと思う)から発掘したもの。
で、調べている内に入ってきたのだが、今作は東インドをモチーフにしたブレイクビーツものだそう。確かに全編に亘ってシタールをしつこい位にフィーチャーしていて、インドっぽい。
あと今作はダヴ度が希薄でひたすらトライバルビートで迫ってくる。彼のダヴは時にディープ過ぎて気分によって重い感じを受けるが、これはあんまりない。……というか淡々と続いていくビートに眠くなったりする。
でも、この手の音楽にありがちな押しつけがましさやけばけばしいほどの派手さが無く、淡泊。しかしながらも時折耳を唸らせるヴォイスサンプリングやメロディが入ってくるのは流石。
初期ムスリムガーゼのダンサブルなトライバルビートを上手く更新させた傑作。シタールの鳴りもサンプリング・ヴォイスも良し。自分によし、うんよし。700枚限定とのことだが、ユニオン等で見つけたら即購入をお薦めしたい。

youtu.be

Laibach - Also Sprach Zarathustra

Also Sprach Zarathustra

Also Sprach Zarathustra

ユーゴスラヴィアのインダストリアル系バンドの16th。
前作のブロステップ調のEBMから一転、マーシャル・インダストリアル一直線なものから、ネオクラシカルIDMまでとかなり実験的なアルバム。
だが、一聴してライバッハと解ってしまうのは圧巻。前作のブロステップもそうだけど、彼らは自分たちの音を崩すことなく、新しい音を取り入れるのが上手い。
ライバッハはチトー大統領の死後……つまり1980年から活動している息の長いバンド(その間に国が解体してしまう!現在はその旧ユーゴからいち早く脱退したスロベニアを活動の拠点としている)だが、実は流動的でその時によってメンバーがかなり違っているよう(しかし、例の四人は必ずいた。近年までは)。なので、結構時流に沿った音を出して来ていたりする。アルバム「Kapital」でハウス、「NATO」ではトランス(リミックスにその時点ではかなりアングラだったジュノ・リアクターを抜擢!)、「Jesus Christ Superstars」ではインダストリアル・メタル……。
が、さっきも書いた通り、ライバッハ印は全く持って健在なので驚いてしまう。これほどまでに核がしっかりとしたバンドも珍しいかも。
このアルバムは前作の様な激しさを求める向きには物足りないだろうが、彼ら特有の重厚さ荘厳さは過去のどの作品よりもあり、そのノリが好きな向き(俺だよオレ!)にはお薦めしたい一枚。また新たな一手を出してきたライバッハには今後も期待できそうだ。個人的に今年のベスト。

KMFDM - Hell Yeah

Hell Yeah

Hell Yeah

ドイツのインダストリアル・メタル系バンドのもう何枚目になってるのか数えたくないアルバム。
アメリカのEBM、インダストリアル・メタル系のレーベル「メトロポリス」からドイツの「Ear Music」というロック、メタル系のレーベルに移した模様。日本のBabymetalも居た模様。
しかし、レーベルが変わろうともあのKMFDMサウンドは健在。しかも今作はブロステップ、果ては初期の頃のようなダヴまで演っているという超意欲作!
ここ10年あまりはシンセベースがブンブン疾走していく「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」ノリだったが、ここに来てダヴ……。それも只のダヴじゃなくてミニストリーの近作にも聴かれたような、スラッシュ・メタルなダヴ。沈み込むようにザクザクと斬っていくスラッシュ・ギターが心地よい。
彼らの座右の銘である「ウルトラ・ヘヴィ・ビート」がEBM及びインメタ由来のそれとダヴが結びつくことにより、より増し増しなものへと深化。まだまだKMFDMは健在!買え!以上!