Adriano Canzian - Pornography

Pornography (Dig)

Pornography (Dig)

イタリアのエレクトロ、テクノ、EBM系アーティストの1st。
イタロのエレクトロニック・ボディ・ミュージックといえば真っ先に挙がるのがパンコウ。しかし、このお方が奏でるそれはパンコウの素朴でちょっぴりゴシックなエレボとは大きく異なっている。
このアルバムが出たのは2005年。当時はオルタ―・イーゴの「Rocker」を端とするハードでアシッドなエレクトロが全盛だった。その流れを汲むアーティストやバンドも出始めていた頃だった。ジャスティスやデジタリズムなんかだろうか。明らかに1980年代のエレクトロとは違っている「エレクトロ」が浸透し始めていた頃だった。
しかしながら、その所謂黒人のプレヒップ・ホップこと「エレクトロ」とは違っていたそれは源を探っていくと、エレクトロニック・ボディ・ミュージックに行きつくように聴こえる。この2000年代半ばにはハード・エレクトロを体現する「エレクトロ・パンク」と呼ばれていたジャンルも同時に生まれていた。同ジャンルを表わすコンピ「エレクトロ・パンク」に収録されていたブラック・ストロボの曲を聴いてみると、EBMの影響が明らかになると思う。アシッド、ハード・ミニマル、トランスを通過したフロント242やニッツアー・エブが鳴っていた。
このアルバムも全くそれで、ハード・アシッドを通過したEBMだ。オルタ―・イーゴが開発したハード・エレクトロがニッツアー・エブと見事に融合。またクレジットに書かれた(彼が)尊敬するものにキュアー、スージー&ザ・バンシ―ズなどが並び、その所為かゴシック、ダークウェイヴのりも加味されている。
ハード・アシッド・エレクトロとエレクトロニック・ボディ・ミュージックが交差するとき……。意外とディスク・ユニオンのクラブ・ミュージック館で一枚数百円という投げ売り棚で見つけることが出来るので興味を持たれた向きは如何か?

Ron Morelli - A Gathering Together

A Gathering Together

A Gathering Together

アメリカはニューヨークの「L.I.E.S.」というかなりアウトサイダーなテクノやハウスを出しているレーベルの長の3rdアルバム。
最近のテクノやハウスの動向はさっぱりになってしまったので前述した「L.I.E.S.」というレーベルは全く知らないが、ネットに散在する情報を見るに、ゴス、インダストリアルよりなテクノも出しているよう。こういう新興勢力はチェックしとかないといけないですな。
しかし、このアルバムはPrurient他で漆黒メタル・ジャンクを出しているDominick Fernow主宰のHospital Productionsから出している。という訳でお察しの通りの音。初期から1980年代前半までのM.B.を魅せつつ、そしてそれをテクノと融合させようとしているのが伺える。それはDominick Fernowも同様の手法を使っているが、このアーティストはシカゴ・アシッドやハード・テクノのフォーマットでインダストリアルを実践しようとしている。しかもラフかつダークなシカゴ・アシッドだ。その今までにない音像は圧巻。
バム・バムを思い起こさせるダークかつ絶望感溢れるシカゴ・アシッドとイタロ・インダストリアルの雄ことマウリツィオ・ビアンキが交差するとき……。ちょうお薦め。要チェックやで!

Godflesh - A World Lit Only By Fire

A World Lit Only By Fire

A World Lit Only By Fire

イギリスのインダストリアル系メタルバンドの7th。
来月の半ばに新譜が出るというので、買った当時はあんまり良いとはいえず、数回聴いて積んでいたこのアルバムを先日、久しぶりに聴いてみたら、思いの外良かったので紹介してみたい。
本アルバムは2001年に出た「Hymns」以来でその間は13年だ。何故、それだけの年数が空いてしまったのかは知らないが、その間にも様々な名義(JKフレッシュ、イェスーなどなど)での音源をジャステインは出していたので、空いている感じは受けない。
そして、このアルバムはその13年間で行っていた各々のプロジェクトからの経験値を反映しているのかと、訊かれれば、全く無いと答えたくなるようなアルバム。(比較してもしょうがないが)前作「Hymns」は生ドラムをフィーチャーしてギター・リフやベースラインの重さよりもビートの重さに力を置いていた、彼らの今までの作風からすると異色な音になっていた。その前作が無かったかのような、冷徹なマシーン・ビートの上を荒涼、退廃としたシーケンスが流れていく、初期から1990年代半ばまでのゴッドフレッシュ。一番近いのは「Selfless」だろうか。
時に覚醒するが全体的にはヘヴィでドローンなインダストリアル・メタルが揺蕩う。倦怠感を伴う微睡をハンマービートな打ち込みが斬り込み、それがアルバム全体の良いアクセントになっている。
まだ、新譜の音源は一曲も聴いてはいないが彼らのことだ、また大きく裏切ってくることは間違いなしだ。しかし、その前にこのドローン・インダストリアル・メタルを聴いてみては如何か?

Mastertune - No Help!

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ドイツのEBMグループの1st。
端的に表そうが、迂遠で表わそうが「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」。もうそれで本エントリは終わってしまうのだけど、もう少しだけ語りたい。
このアルバムが発表されたのは某DBサイト曰く1995年。この頃はもう欧州を席巻したトランス及びジャーマン・トランスも下火になって、それまでジャーマン・トランスに収まっていた、ゴア・トランス、サイケデリック・トランスが台頭して来た時代。同時にジャングル、ブレイクビーツ・テクノと呼ばれていたものがレイヴ寄りからベットルームで聴くような音楽へと移行し「ドラムンベース」というジャンル名になり、定着したのもこの辺りだろう(この解釈に異論がある向きは多いと思うので、私見として読んで欲しい。悪しからず)。
その時代にこのアルバムである。……少し話は変わるが1990年代半ば、家庭用ゲーム業界はプレイステーションセガ・サターンといった所謂「32bit機」へと移行し、ポリゴンで表わされた3Dゲームがシーンを賑わせていた。しかし、ソフトメーカーによっては旧ハード、つまりスーパーファミコンで新作を出しており、その存在感を示していた。
このアルバムはその旧ハードで全きの新作を出していたメーカーみたいなものだ。しかし、消えゆく旧ハードの新作ゲームが目新しさを微塵も感じさせなかったように、このアルバムもフロント242の黄金期をなぞっているのみ。が、衰退期に出されたゲームがぱっと目に見える新鮮さは無い替わりにハードの限界の限界まで追求したようなものが多く、それが胸を打つ。具体的なソフトを挙げれば、「聖剣伝説3」だろうか。職人芸ともいえる緻密かつ凝ったドット絵がひたすらに胸を打った。このアルバムもまたその限界性に追求しており、EBMというジャンルでまだできることがないか、という模索の軌跡を聴かせてくれる。
フロント242の黄金期、1980年代末期のインダストリアル寄りのニュービートが好きな向きは買って損は無!時代錯誤を恐れない漢たちの魂の輝きを聴ける!

KTL - Ⅳ

IV(紙ジャケット仕様)

IV(紙ジャケット仕様)

アメリカのドゥーム/ドローン・メタルバンドSunn O))のStephen O’MalleyとIDM系レーベルの中でも異色過ぎるEditions Mego主宰のPeter Rehbergから成るユニットの4th。
前作「2」のスラッシュ・ドローンな音像が圧巻で、もうココまで逝ってしまうと、後は何を表わしたらいいのだろうかという極北にして最北端でリアルタイムで聴いた時は解散するのでは?と思った位。
だが続きましたこのデュオは。しかし、本作は前作のスラッシュさは皆無でひたすらダークかつ不穏なドローン、ノイズ・アンビエント。あとひたすら重い。この人達にしては珍しくドラムを入れてたりするのだが、それも今作の重さを表わすのに一役買っている。
でもこの重さ……どこかで聴いたことがあるな……しかし、思い出せない……。そんな小骨が引っ掛かった様な気分を聴くたびに感じていたのだけど、先日思い出しました。そう、ゴッドフレッシュだ。
ゴッドフレッシュはナパーム・デスにいたメンバーをフロントマンとしているインダストリアル系メタルバンドだが、その手のバンドとは全く異なっている。元々ナパーム・デスにいたくらいだから違ってて当然なのだけど、ゴッドフレッシュは荒涼、退廃、ゴシックという三つの重さに彼らが好きであろう(ジャスティンはラムレーのTシャツを着ているくらいだ)パワー・エレクトロニクスが合わさっている。それでいてドローンなノリが全体に亘って続いているのだから異常過ぎる。この異常ぶりは同じくインダストリアル・メタルに分類されているKMFDMやナイン・インチ・ネイルズを聴いてみると解ると思う。
ゴッドフレッシュからデス・ヴォイスとメタリックギターを引いたようなひたすらに荒涼、退廃な雰囲気が満載のインダストリアル・ドローン。中二病的な妄想に浸るには最適の音楽だろう。お薦め。

The Cassandra Complex - Satan, Bugs Bunny, And Me...

Satan Bugs Bunny & Me

Satan Bugs Bunny & Me

イギリスのEBM系バンドの4th。
「西のWax Trax!、東のPlay It Again Sam Records」と呼ばれている程のEBM系レーベルの総本山としてこの二つのレーベルが1980年代後半に在ったのだけど、その実、様々なジャンルの音を出していた。
このバンドは金字塔的なコンピレーションアルバム「This Is Electronic Body Music」にも収録されていて、その一派とされることが多い。しかし、このアルバムを聴いてみても解る通り所謂「ポジティヴ・パンク」(以下:ポジパン)。
デジタルビートの上をサイケデリックなファズギターやこれまた耽美でネオサイケなキーボードが時に絡み時に疾走していく。ヴォーカルもエレボ系にありがちな濁声ではなくジョイ・ディヴィジョンを思わすヴォーカルスタイル。
この音に一番近いのがシスターズ・オヴ・マーシーだろうか。ポジパン御三家といえばセックス・ギャング・チルドレン、ザ・サザン・デス・カルト、ダンス・ソサエティらがいたが、その後続としてシスターズ・オブ・マーシーがいた。マシーン・ビートに耽美なメロディとヴィジュアルが特徴的で数多のフォロワーを産んだ。
本エントリーで紹介するバンド「The Cassandra Complex」もそのシスターズの眷属だろう。マシーナリィな美学とゴシックが交差する音。またシスターズよりもデジタル・リフを前面に出した音像はEBMのコンピに収録される所以か。
某音楽雑誌のインタビュでシスターズ・オブ・マーシーのアンドリュー・エルドリッチは自分たちの音を指して「ニール・ヤングとフロント242を足して2で割った様なバンドなんだぜ」と語っていたが、このカサンドラ・コンプレックスは2で割ってない音だろう。入手は困難を極めると思うが、貴方の街のブックオフをくまなく探して欲しい。お薦め。

PSIHOKRATIJA - Diskografija 1988-1991

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ユーゴスラヴィアのダークウェイヴバンドの1988年から1991年までの音源を集めたコンピレーションアルバム。
唐突だが、YouTubeのDronemf S.というアカウントをご存じだろうか?ご存知なければ、是非とも検索して欲しい。なぜなら、本エントリはこのアカウントを抜きにしては語れないからだ。
1970年代後半に勃興したニューウェイヴ、パンク、インダストリアルは1980年代も半ばになるとそれまで先進国の主要都市だけだったものが全世界へと広がっていく。特にインダストリアルはそれまで話題にも上がらなかった国や都市から出てきた。またエレクトロニクスを主とする音もだ。
このバンドはその話題にも上がらなかった国、旧ユーゴから出てきた。旧ユーゴは「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」と呼ばれている程の多民族国家で、このバンドは(当時は)セルビア社会主義共和国(現在はセルビア共和国)出身のセルビア人のよう。
自分はセルビアの音楽は全く知らないが、このコンピを聴くとどう表わしていいのか悩んでしまう。確かに、シスターズ・オヴ・マーシー、セックス・ギャング・チルドレンなどの所謂「ポジティヴ・パンク」と呼ばれていたダークウェイヴ系の音……だが、大きく異なっているのはこの人達が居た国の所為なのかは解らないが、同時期に旧ユーゴから出ていた、ライバッハ、ボルゲイジアの様に「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」してしまっている。
そこはかとなく聴こえてくる共産主義的な雰囲気やマーチしてしまうビート……つまりはハンマービートが鳴りライバッハと同じくエレボしてしまっている。そしてポジパンなゴスな雰囲気も相まって、異形すぎる。
しかしながら、このような異形の音楽は当時、同じような旧共産圏(ラトビアとか)からも多く出ていたことがDronemf S.氏が上げている音源から知ることが出来る。ノイバウテンのようなインダストリアル・ビート、ジョイ・デイヴィジョンのようなポスト・パンク……しかし、そのどれもがおかしい。模倣する視点が明らかに違っている。
ボルゲイジアがセックス・ギャング・チルドレンやシスターズ・オヴ・マーシーを演ったらこうなるかもって趣。ゴスとエレクトロニック・ボディ・ビートが交差するとき……。
ちなみにココ(http://www.pmkrecords.com/psihokratija-u-teatru-misterije-1991-pmk032-2016/)から買えるので興味を持たれた向きは是非!

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