Filter - Crazy Eyes

Crazy Eyes

Crazy Eyes

ナイン・インチ・ネイルズのツアーサポートメンバーとして活躍していたRichard Patrick率いるアメリカのインダストリアル系ロックバンドの8th。
NINに関わっていたことでドロドロかつ暗く重い音像を期待する向きもいるだろうが、割と明るいアメリカン・ロックンロールな音を出すバンドだったりで、その手の向きの期待を裏切ったりする。でもこのアルバムは前作に続いて傑作アルバム。
端的に表すならブロステップとアメリカン・ロックンロールの融合だろうか。昨今(というよりもここ10年位)ミクスチャー系、インダストリアル系のバンドやアーティストがブロステップを取り入れて、そのラウドぶりを競っているのだが、遂にこのバンドもどうやらその仲間入りのようだ。
前作はネオアコやハウスを取り入れた、割とお洒落……というかカフェでかけても五月蠅くない音に仕上がっていて、最初は軟弱だなぁと思ったが、聴いていく内にインダストリアル・ロックとハウス、ネオアコの融合という異形の音に魅せられていった覚えがある。
本作はそこから脱却してよりインダストリアルかつデジタルでラウドなロック路線に移行。ワブルベースがビリビリする曲あれば1980年代後半のライバッハみたいな曲もあり、一辺倒ではない部分も魅せる。特にワブルベースがさく裂する曲は1990年代後半の(ハウス寄りではなくロック寄りの)ビッグ・ビートを思い起こさせる。
最近のコンビクライスト、メトロポリスから出てくるようなシンセ・ロックバンドを好む向きにはお薦めしたい一枚。

Fear Factory - The Industrialist

The Industrialist

The Industrialist

アメリカのインダストリアル・ヘヴィ・メタルバンドの9th。
1990年代のインダストリアルことインダストリアル・メタル路線復活アルバム。Pちゃんに元フロント・ライン・アッセンブリーのライズ・フルバーを迎えて、アルバムタイトルに恥じない出来。しかも、今作は全編に亘って打ち込みという拘りよう。
しかしながら「Demanufacture」のようにシンセメロディを前面に推しだしたものは少なく、ひたすらに重機や重戦車の駆動音みたいなインメタで押しまくるという、渋さと漢が過ぎるインダストリアル・スラッシュ!
インメタ期のFLA如きサイバー・デジタルをよりスラッシュ・メタルにしたような鬼インダストリアル・ハードコアが此処に……。インメタ期の彼ら、FLAのインメタ期が好きな向きにはお薦めできる一枚!とても短い紹介文になってしまったがこれで終わりとしたい。

Razed In Black - Shrieks, Laments, & Anguished Cries

Shrieks Laments & Anguished Cries (Dlx)

Shrieks Laments & Anguished Cries (Dlx)

アメリカはハワイ州出身のインダストリアル・メタル系アーティストの1st。
出身地からハワイアンな装いが浮かぶが、その要素ゼロ!どころかマイナスの1990年代のインダストリアルことインダストリアル・メタルが満載のアルバム。
マリリン・マンソンっぽいゴシックなヴィジュアルをしているがその要素もゼロという面白いアーティスト。マンソンとかよりもインメタ期のフロント・ライン・アッセンブリー(以下FLA)に近い音。という訳でスラッシュ・ギターをかき鳴らしながらもトランシーなデジタル・リフも忘れない趣で、同じくFLAなインメタを魅せていたBirmingham 6に最も近いのかもしれない。
しかし、インメタ期のFLAがサイバー・デジタルとスラッシュ・メタルを融合させて映画「マトリックス」ばりのサイバーディストピアを魅せていたのと比べてこのアーティストはフィジカルな要素を前面に出している様に思われる。それはスピード・メタルならぬスピード・エレクトロニック・メタル・ボディを実践していた1990年代前半のディー・クルップスにも似ている。疾走感するエレクロニック・ボディ・ビートの上をこれまた疾走するスラッシュ・ギターにトランスするシンセ、そして吠えるディストーション・ヴォイス……。
短い紹介文になってしまったがこれで終わりたい。FLA、ディー・クルップスの中間に存在するようなアルバム。熱さとトランスが同居する傑作インメタ!お薦め。

Sielwolf - Magnum Force

Magnum Force

Magnum Force

ドイツのメタル・ノイズバンドのシングルに未発表曲を入れたEP。
所謂「インダストリアル・メタル」系の音……なんだけど、ミニストリーナイン・インチ・ネイルズ、KMFDMとは全く趣が異なる音。メンバーにフリージャズやアヴァンギャルドなバンドをやってた人がいるらしく、それがこの異形の音楽に繋がっているのかもしれない。
端的に表すと冒頭に書いた通り「メタル・ノイズ」。ノイバウテンや初期のSPKがメタルを演っているような感じ。スラッシュ・ギターを鳴らしていても全くスラッシュ・メタルバンドのそれには聴こえないのは、根本にノイズ・インダストリアルがあるからだろう。
そう聴くとブラック・メタルバンドに近いかもしれない。このジャンルはメタルとしているが、殆どノイズ・インダストリアル……それもパワー・エレクトロニクスにしか聴こえないような音源が沢山存在している。ブラック・メタルの歪み過ぎたメタル・ギター、絶叫と発狂ヴォイス……というより出てくる音の全てが歪んでノイジーな発狂音はメタルというよりは前述した通りラムレーやホワイトハウスなパワエレにしか聴こえないだろう。ジャンルは違うがSunn O)))及びメンバーのステファン・オマリーがレーベル「Editions Mego」の長ことPeter Rehbergと共にやっているKTLなんかにも近い印象を受ける。どちらもメタルを基調としながらも、インダストリアルやアンビエントといったジャンルを取り込み、明らかに「BURRN!」を読んでそうなメタルファンから唾棄されそう……または理解されなそうな音に仕上がっている(現にSunn O)))は同誌のクロスレビューで4点を記録)。
このEPも全く前述した通りの音。ブラック・メタルまでとはいかないが、全く「BURRN!」誌には理解されない音が満載。ゴッドフレッシュ、Sunn O)))等のインダストリアルな辺境メタルを好む向きにはお薦めしたい一枚。これ以外のアルバムやシングル、EPもこのエントリで紹介した以上に面白いので興味を持たれた向きは調べてみるといいだろう。

youtu.be

Leæther Strip - Double Or Nothing

Double Or Nothing

Double Or Nothing

デンマークのエレクトロ・インダストリアル系アーティストのシングルと初期の音源を集めた2枚組。Zoth Ommogのライセンスリリースを手掛けていたアメリカのレーベル「Cleopatra」が独自に編集したもの。
このアーティストは1989年にZoth Ommogから「Japanese Bodies」というシングルでデビューしていて、1980年代初期から活動しているフロント242、スキニー・パピー、ニッツアー・エブなんかとはスタートが遅くて、恐らく世代も違っている。物心ついてから前述したバンド達の音源を聴いてたような連中がこの辺りからデビューし、それが1990年代のインダストリアル(メタル)やEBM、ダーク・エレクトロシーンの中核を担って行った。スーサイド・コマンドー、アンプスカット、このエントリで取り上げるレザーストリップもそうだ。
レザーストリップがデビューを果たしたレーベル「Zoth Ommog」はこの時代は所謂「ベルジャン・ニュービート」と呼ばれていた音源を多く出していたレーベルで、欧州のエレクトロニック・ダンス・ミュージックなレーベルの殆どはその「ニュービートレーベル」だったようだ。
しかし、このレザー・ストリップの初期の音源を聴けば解るように、数多のニュービートレーベルとは異なっていることに気が付く。スキニー・パピーとニッツアー・エブが混ざった様な直線的でノイジーなエレボ。そしてトランシーなメロディ。元々ニュービートはエレボの派生ジャンルではあるが、音を聴けばわかるようトランスの原点にもなっているため共通項は多いが、このアーティストはトランスを奏でながらも旧来のエレボやインダストリアルも奏でることが出来ている。後に多くのニュービートレーベルがトランスやテクノに移行して行くが、Zoth Ommogはインダストリアル・メタルやエレボをリリースするレーベルに移行する。まるで先祖がえりしているような感じだが、本エントリの音を聴けば、前述したように明らかに旧来のエレボやインダストリアルとは異なっている。
ジャーマン・トランスにあった(いかにも欧州的な)ゴシカルかつ酩酊かつ陶酔していくメロディがエレクトロ・ハンマービートの上を疾走し、ディストーションヴォイスが叫ぶ。
1990年代のインダストリアルとしてインダストリアル・メタル及びロックが語られることが多いが、このアーティストの様なトランスとエレボ、そしてインダストリアルの狭間に存在していた音も見逃してはならないと思う。この二枚組は冒頭に書いた通りアメリカのレーベル「Cleopatra」から出ているのでブックオフやユニオンで探せば見つかる確率が高いので入手は難しくはない……ハズなので興味を持たれた向きは探してみるといいだろう。

Mentallo & The Fixer - Where Angels Fear To Tread

Where Angels Fear to Tread

Where Angels Fear to Tread

アメリカのエレクトロ・インダストリアルデュオの3rd。
これも所謂「ダーク・エレクトロ」系になるとは思うけど、そこはZoth Ommog。EBM⇒ニュービート⇒トランスの流れを感じざる得ない音。この二人組はアメリカのテキサスなのだけど。
ホント、Zoth Ommogのレーベルカラーに相応しい音で、この人達がアメリカ出身だということが信じられない。インダストリアル色が濃いニュービートがそのままトランスへと移行しなくて、(トランスへの繋がりも感じつつ)ニュービートのまま留まっている、といいますか。レザー・ストリップをジュノ・リアクターがリミックスしたらこうなるだろうな、って趣。
このアルバムは彼ら二人組の三枚目で、その「レザー・ストリップをジュノ・リアクターがリミックス」が極まっている。1stと2ndはゴシカルな初期フロント・ライン・アッセンブリーって感じであんまり面白いものではなかったりする。でもこのアルバムは当時のジャーマン・トランスやサイケデリック・トランスを聴いていたのでは?と思うような音で純粋なクオリティの向上も含めてその影響に驚く。もしかしたらWax Trax!以外でもアメリカに欧州のテクノやトランスをライセンスリリースしていたレーベルがあったのかもしれないし、トランス及びサイトランスを輸入して販売していたレコード店、そしてレイヴもあったのかもしれない。1990年代前半にエレボ及びニュービートを感じるハード・テクノを量産していたジョーイ・ベルトラムだって(ニューヨークだけど)米国を拠点にしていたしね。
これまた「サイケデリック・トランスはエレボが原点」説を補強するアルバム。サイケデリック・トランスとエレボの狭間にして異常なハイクオリティな音源は自分によし、うん、よし、過ぎるアルバム。サイコー!見つけたら即購入!以上!

Cabaret Voltaire - Drinking Gasoline

イギリスのインダストリアル・グループのダブル12inchを収録したCD(デジタルリマスタ)に「Gasoline In Your Eye」というタイトルで出た映像作品の入ったDVDがついたもの。
この時期(1985年)のキャブスはEBM期でも全盛といったところだろう。1983年のアルバム「The Crackdown」前後からエレボ化したキャブスだったが、「2X45」で見せたポスト・パンク的な呪縛から逃れるのは困難だったようでジョイ・ディヴィジョン的なポジパンもあり過渡期な部分もあった「The Crackdown」。
しかし、次のシングル、アルバム辺りからインダストリアル・エレクトロ・ファンクとでも形容すべき様な音に移行し、これが後の「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」へと繋がって行く。リミックスをエレクトロ系のプロデューサーJohn Robieを頼んだりしているのが印象的だ。特にAdrian Sherwoodとの共同Pちゃんで出した1987年の「Code」はEBM期最終作にして最高傑作。
が、エレクトロといっても当時のユーロ・ビートやハイエナジー、イタロ・ディスコ的な要素は皆無で時に歪みひんやりとしたエレクトロ・ビートにダークなメロディ、ノイジーなギター、不穏なサンプリング音を展開するその様は流石、ノイズ・インダストリアルあがりでそれはやはり後のエレボ勢の音に近い……というかこの頃のキャブスの音がそのお手本になったのだと思われる。初期のフロント・ライン・アッセンブリー、ミニストリー、リヴォルティング・コックスを聴けば如何に影響されているかが解るはず。
ポーション・コントロールと並んでエレボの原点。初期FLA、リヴコ好きは聴かないと!