The Cassandra Complex - Satan, Bugs Bunny, And Me...

Satan Bugs Bunny & Me

Satan Bugs Bunny & Me

イギリスのEBM系バンドの4th。
「西のWax Trax!、東のPlay It Again Sam Records」と呼ばれている程のEBM系レーベルの総本山としてこの二つのレーベルが1980年代後半に在ったのだけど、その実、様々なジャンルの音を出していた。
このバンドは金字塔的なコンピレーションアルバム「This Is Electronic Body Music」にも収録されていて、その一派とされることが多い。しかし、このアルバムを聴いてみても解る通り所謂「ポジティヴ・パンク」(以下:ポジパン)。
デジタルビートの上をサイケデリックなファズギターやこれまた耽美でネオサイケなキーボードが時に絡み時に疾走していく。ヴォーカルもエレボ系にありがちな濁声ではなくジョイ・ディヴィジョンを思わすヴォーカルスタイル。
この音に一番近いのがシスターズ・オヴ・マーシーだろうか。ポジパン御三家といえばセックス・ギャング・チルドレン、ザ・サザン・デス・カルト、ダンス・ソサエティらがいたが、その後続としてシスターズ・オブ・マーシーがいた。マシーン・ビートに耽美なメロディとヴィジュアルが特徴的で数多のフォロワーを産んだ。
本エントリーで紹介するバンド「The Cassandra Complex」もそのシスターズの眷属だろう。マシーナリィな美学とゴシックが交差する音。またシスターズよりもデジタル・リフを前面に出した音像はEBMのコンピに収録される所以か。
某音楽雑誌のインタビュでシスターズ・オブ・マーシーのアンドリュー・エルドリッチは自分たちの音を指して「ニール・ヤングとフロント242を足して2で割った様なバンドなんだぜ」と語っていたが、このカサンドラ・コンプレックスは2で割ってない音だろう。入手は困難を極めると思うが、貴方の街のブックオフをくまなく探して欲しい。お薦め。

PSIHOKRATIJA - Diskografija 1988-1991

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ユーゴスラヴィアのダークウェイヴバンドの1988年から1991年までの音源を集めたコンピレーションアルバム。
唐突だが、YouTubeのDronemf S.というアカウントをご存じだろうか?ご存知なければ、是非とも検索して欲しい。なぜなら、本エントリはこのアカウントを抜きにしては語れないからだ。
1970年代後半に勃興したニューウェイヴ、パンク、インダストリアルは1980年代も半ばになるとそれまで先進国の主要都市だけだったものが全世界へと広がっていく。特にインダストリアルはそれまで話題にも上がらなかった国や都市から出てきた。またエレクトロニクスを主とする音もだ。
このバンドはその話題にも上がらなかった国、旧ユーゴから出てきた。旧ユーゴは「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」と呼ばれている程の多民族国家で、このバンドは(当時は)セルビア社会主義共和国(現在はセルビア共和国)出身のセルビア人のよう。
自分はセルビアの音楽は全く知らないが、このコンピを聴くとどう表わしていいのか悩んでしまう。確かに、シスターズ・オヴ・マーシー、セックス・ギャング・チルドレンなどの所謂「ポジティヴ・パンク」と呼ばれていたダークウェイヴ系の音……だが、大きく異なっているのはこの人達が居た国の所為なのかは解らないが、同時期に旧ユーゴから出ていた、ライバッハ、ボルゲイジアの様に「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」してしまっている。
そこはかとなく聴こえてくる共産主義的な雰囲気やマーチしてしまうビート……つまりはハンマービートが鳴りライバッハと同じくエレボしてしまっている。そしてポジパンなゴスな雰囲気も相まって、異形すぎる。
しかしながら、このような異形の音楽は当時、同じような旧共産圏(ラトビアとか)からも多く出ていたことがDronemf S.氏が上げている音源から知ることが出来る。ノイバウテンのようなインダストリアル・ビート、ジョイ・デイヴィジョンのようなポスト・パンク……しかし、そのどれもがおかしい。模倣する視点が明らかに違っている。
ボルゲイジアがセックス・ギャング・チルドレンやシスターズ・オヴ・マーシーを演ったらこうなるかもって趣。ゴスとエレクトロニック・ボディ・ビートが交差するとき……。
ちなみにココ(http://www.pmkrecords.com/psihokratija-u-teatru-misterije-1991-pmk032-2016/)から買えるので興味を持たれた向きは是非!

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Muslimgauze - Souk Bou Saada

Souk Bou Saada

Souk Bou Saada

英国出身のアーティストによる2012年発表のアルバム。
1999年に鬼籍に入っているのに、コレ如何に?と思って調べたら、またしても彼が遺した大量の未発表音源(今回はアルバム単位だと思う)から発掘したもの。
で、調べている内に入ってきたのだが、今作は東インドをモチーフにしたブレイクビーツものだそう。確かに全編に亘ってシタールをしつこい位にフィーチャーしていて、インドっぽい。
あと今作はダヴ度が希薄でひたすらトライバルビートで迫ってくる。彼のダヴは時にディープ過ぎて気分によって重い感じを受けるが、これはあんまりない。……というか淡々と続いていくビートに眠くなったりする。
でも、この手の音楽にありがちな押しつけがましさやけばけばしいほどの派手さが無く、淡泊。しかしながらも時折耳を唸らせるヴォイスサンプリングやメロディが入ってくるのは流石。
初期ムスリムガーゼのダンサブルなトライバルビートを上手く更新させた傑作。シタールの鳴りもサンプリング・ヴォイスも良し。自分によし、うんよし。700枚限定とのことだが、ユニオン等で見つけたら即購入をお薦めしたい。

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Laibach - Also Sprach Zarathustra

Also Sprach Zarathustra

Also Sprach Zarathustra

ユーゴスラヴィアのインダストリアル系バンドの16th。
前作のブロステップ調のEBMから一転、マーシャル・インダストリアル一直線なものから、ネオクラシカルIDMまでとかなり実験的なアルバム。
だが、一聴してライバッハと解ってしまうのは圧巻。前作のブロステップもそうだけど、彼らは自分たちの音を崩すことなく、新しい音を取り入れるのが上手い。
ライバッハはチトー大統領の死後……つまり1980年から活動している息の長いバンド(その間に国が解体してしまう!現在はその旧ユーゴからいち早く脱退したスロベニアを活動の拠点としている)だが、実は流動的でその時によってメンバーがかなり違っているよう(しかし、例の四人は必ずいた。近年までは)。なので、結構時流に沿った音を出して来ていたりする。アルバム「Kapital」でハウス、「NATO」ではトランス(リミックスにその時点ではかなりアングラだったジュノ・リアクターを抜擢!)、「Jesus Christ Superstars」ではインダストリアル・メタル……。
が、さっきも書いた通り、ライバッハ印は全く持って健在なので驚いてしまう。これほどまでに核がしっかりとしたバンドも珍しいかも。
このアルバムは前作の様な激しさを求める向きには物足りないだろうが、彼ら特有の重厚さ荘厳さは過去のどの作品よりもあり、そのノリが好きな向き(俺だよオレ!)にはお薦めしたい一枚。また新たな一手を出してきたライバッハには今後も期待できそうだ。個人的に今年のベスト。

KMFDM - Hell Yeah

Hell Yeah

Hell Yeah

ドイツのインダストリアル・メタル系バンドのもう何枚目になってるのか数えたくないアルバム。
アメリカのEBM、インダストリアル・メタル系のレーベル「メトロポリス」からドイツの「Ear Music」というロック、メタル系のレーベルに移した模様。日本のBabymetalも居た模様。
しかし、レーベルが変わろうともあのKMFDMサウンドは健在。しかも今作はブロステップ、果ては初期の頃のようなダヴまで演っているという超意欲作!
ここ10年あまりはシンセベースがブンブン疾走していく「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」ノリだったが、ここに来てダヴ……。それも只のダヴじゃなくてミニストリーの近作にも聴かれたような、スラッシュ・メタルなダヴ。沈み込むようにザクザクと斬っていくスラッシュ・ギターが心地よい。
彼らの座右の銘である「ウルトラ・ヘヴィ・ビート」がEBM及びインメタ由来のそれとダヴが結びつくことにより、より増し増しなものへと深化。まだまだKMFDMは健在!買え!以上!

Laibach - Krst Pod Triglavom - Baptism

Krstpod Triglavom - Baptism

Krstpod Triglavom - Baptism

ユーゴスラヴィアのインダストリアル系グループのアルバムのタイトルにもなっている「Krst Pod Triglavom - Baptism」というオペラ(演劇かも?)のサウンドトラック。
ライバッハにオペラの劇半を頼む……これほどの適役もおるまい。振り下ろされる、叩きだされるハンマービート及びメタル・パーカッションの上を荘厳なメロディが流れ、それをバックにして激情的に歌い上げるヴォーカル……。……いつも通りのライバッハだ。
元々がそういうスタイルだったため、今の今までこれがオペラの劇半だとは気が付かなかった。しかし、これほどまでにそれが合ってしまうグループはこの手のジャンルでは中々見つからないだろう。またこのことから彼らのMVがオペラ風だったりするのにも気が付いた。もしかして彼らのルーツはオペラにあるのかもしれない。そして、それをDAF由来のエレクトロニック・ボディ・ミュージックと混ぜた……。このライバッハというグループはそうとしか見えなくなってしまった。
全くいつも通りのライバッハのアルバム(アルバム「Opus Dei」からの曲も幾つか入っている)。なので彼らの音が好きな向きで持ってない人は買い!でしょう。短い紹介文になってしまったが以上!

V.A. - The Sound Of Belgium Vol. 2

Sound of Belgium Vol.2

Sound of Belgium Vol.2

このコンピレーションアルバム4枚組は所謂「ベルジャン・ニュービート」と呼ばれていたものが殆どを占めている。やっとこういったジャンルの見直しも始まったということだろう。
元々ベルギーは1970年代後半からテレックスというエレクトロ・ポップグループが居て、同時期に世界各国から出てきた同じようなバンドやグループともにシーンは栄えていたよう。しかし、その後、この手のジャンルが衰退していって生音指向に戻って行った。
が、ベルギー(とその周辺国)だけはエレクトロニックに拘った音を量産し続けていた。代表的なグループを挙げるとするならフロント242だろう。クラフトワークDAFに影響されたフルエレクトロニックな音楽は当時、時代錯誤とされ日本のある中古盤屋ではフロント242のシングルが投げ売りされていたそうだ。
しかし、愚直にも長く続けていれば日の目を見るのだろうか。1980年代後半にもなるとアメリカのシカゴやニューヨークを端としたハウス、アシッド・ハウスが欧州で猛威を振るい始め、同時に「エレクトロニック・ボディ・ミュージック(以下EBM)」も猛威を振るい始めた。
そして、ベルギーにはその猛威を更に猛威とさせることが出来る土壌があった。そうフロント242(彼らはそのEBMというジャンル名の提唱者でもある)を始めとするEBM勢だ。1980年代半ば前後には見向きもされなかった音が表舞台に舞い降り、そして雨後の竹の子のようにレーベルが増えた。しかもその雨後に産まれたレーベルはフロント242を始めとするEBM勢よりもダンサブルでダンスフロア向けを中心とした音だった。それは猛威を振るっていたアシッド・ハウスの影響だろう。EBMをベースによりドラッギーでよりトランシーな音作りをしていた。そしてそれこそが「ニュービート」と成る。
周辺国もそれに乗り、特にドイツのエレクトロニック・ダンス系のレーベルはその殆どが「ニュービート」レーベルだった。ケン・イシイを輩出したR&Sが有名だろう。R&Sは当時ベルギーに多くあったそれと同じであったが、1990年、同レーベルから出たジョーイ・ベルトラムの「Beltram Vol.1」はニュービートをハードコア・テクノに発展させた。その後もベルトラムは「音の暴力」としか形容出来ない音を量産していく。特にオランダのハードコア、ガバの雄ポール・エルスタックとのユニット「Hard Attack」は極限までその暴力性を高めた傑作だろう。また同レーベルのCJボーランドといったアーティスト達がニュービートをトランスへと発展させてもいく。
このコンピは今まで書いてきた、ニュービート黎明期からハードコア移行期、移行後、トランス前夜までの道のりを聴くことが出来る。でも一枚目はテレックスなどのニューウェイヴものも収録されているのでニュービート前夜まで聴くことが出来てしまう。
今までこの手の音聴きたければ、ブックオフなどで「テクノ」や「アシッド」という題名の付いた1980年代後半のものを発掘する、ないし動画共有サイトなどのネットでしか聴くことが出来なかった。しかし、このようなコンピが新たな形でまとめられたのは快挙だろう。興味を持たれた向きは一聴してみては如何。