Muslimgauze - Azzazin

Azzazin

Azzazin

英国のアーティストによる1996年発表のアルバム。自分が持ってるのは2004年に(2ndエディションとして)再発された盤の模様。
このアーティストといえば中東……アラビックな音像を魅せてくれるので有名。しかし、このアルバムはそれが無。またこのアルバムの不穏さと不可解さはなんなのだろう。
アルバムの殆どの曲がビーとかブーとかチリチリとかのブリープ音やグリッチ音で構成されている。当時、出始めていたオヴァルなんかのIDM系の音を取り入れたのかもしれないが、それにしてはベースがビリビリ(not御坂美琴)効いていて、どちらかと言えば後のダヴステップに近い。それもヒップホップ寄りのダヴステップじゃなくて、スコーンとかザ・ハクサン・クロークに近い。ダークでヘヴィ・インダストリアルなダヴステップだ。そして、そこへ不穏なアラブ・サンプリングが時折入って来て、よりアシッドかつダークな音像を増し増しにしてくるのがなによりも恐ろしい。
このアーティストの特徴であるアラブ音楽は希薄だが、不穏さと不気味ぶりはどのアルバムよりも濃い。アルバムタイトルが「アサシン」とはうまくいったもの。ザ・ハクサン・クローク、レーベル「Blackest Ever Black」を予見したかのような音は圧巻。二十年経った今こそ多くの人間に聴かれ、絶賛されるべきアルバムだと思う。真のオーパーツが此処に……。ちょうお薦め。

Tim Hecker - Ravedeath,1972

Ravedeath 1972

Ravedeath 1972

アメリカのIDM系アーティストの7th。
このブログで2013年発表の「Virgins」を紹介して、1980年代のアンビエントなインダストリアルとの相関関係を書いてみたが、このアルバムは正にそれだ。
先ずジャケットの大学の屋上と思しき場所からピアノを落している古い写真(アルバムタイトルにあるように1972年だろう)からクラ二オクラスト的な退廃がビシバシ伝わってくる。
そして、音もそのクラ二オクラストの諸作、コントロールド・ブリーディング、ノクターナル・エミッションズ、コイルのアンビエントを思わすインダストリアル・アンビエント。またデス・イン・ジューン、カレント93、ヴァジリスク、ソビエト・フランスといった所謂「リチュアル・ノイズ」も思い起こすことだろう。
しかし、このアルバムが圧倒的なのは1990年代のワープを代表とするインテリジェント・テクノ(後のIDMエレクトロニカ)も思わせるメロディや展開を持っているとこだろう。初期オウテカ、B12、そしてAFXの「アンビエント・ワークス」といった音源が浮かぶ。このアシッド・ハウスを端とするレイヴやトランスを通過したインテリジェント・テクノはトランスの酩酊感や陶酔感をそのままにビートだけを削除したような音でブライアン・イーノが提唱するアンビエント「家具の様な音楽」とは全く異なっていた。
タイトルの「Ravedeath」にあるように狂騒の終わりを表わしたインテリジェント・テクノと退廃的な「リチュアル・ノイズ」が交差した恐るべきアルバム。KTLなんかのドローン系のブラック・メタルが好きな向きにもお薦めしたい一枚。

Thomas Leer - 1979

1979

1979

スコットランドのアーティストによる1979年録音のアルバム。今年になって出たようです。
この人はロバート・レンタルとあのスロビッング・グリセル主宰のレーベル「インダストリアル・レコーズ」からアルバムを出してたりする人だったりするのだが、自分は聴いてなかったり。というかこのアルバムで初めてトーマス・リアーの音に触れた。
しかし、聴いてみるとそのインダストリアルさはあんまり無くて、スーサイドやジャーマン・ニューウェイヴっぽいといいますか。ジョイ・ディヴィジョンの残った面子がイタロ・ディスコやハイエナジーじゃなくてクラスターとかタンジェリン・ドリーム、アシュラなんかのジャーマン・プログレにハマってニュー・オーダーを結成したらこうなるかも……って趣。享楽の方向性がアシッドに向かっているといいますか……。初期のキャバレー・ヴォルテールからノイズを抜いたような感じとも聴ける。
ダークな部分はポジティヴ・パンクっぽいのだけど、エレクトロニクスの使い方はスーサイドやアタタックの連中みたくカオスでアシッド。デア・プランのメンバー、ピロレーターの初期ソロ作品に近い感じ。
ジョイ・ディヴィジョンと初期ピロレーターが交差するとき……。お薦め。

Cabaret Voltaire - The Covenant, The Sword And The Arm Of The Lord

イギリスのインダストリアル系バンドの7th。
暑い……。暑苦しいジャケにこれまた暑苦しい音のエレボやインメタなんぞ聴いてられるか!とアンビエントや涼しげなIDMを聴いている今日この頃。
だがこのキャブスはこの時期にも聴ける!というかこの時期こそ聴くべきアルバムが本エントリで紹介したい一枚。
スロビッング・グリセルと共に「インダストリアル・ミュージック」の基礎を作り上げたこのキャブスも1980年代に入ると、ダンスよりのダンサブルな音を奏でるようになり、旧来のノイズ・インダストリアル勢……というよりもよりハードコアになったパワー・エレクトロニクス勢に裏切り者扱いされて、特にホワイトハウスのウィリアム・ベネットが自身の発行する同人誌で「ラフトレードのTGやキャブスはもう一つのファンク・バンドまでに甘くなってしまった。TGのアルバムに関して我々は彼らのアートに見るべきパロディを感じない。しかし、ヒューマン・リーグよりはずっとましだ……。」とキャブスのライブアルバムのレビューを書いていた位だ。しかし、そのベネットが揶揄する「もう一つのファンク・バンド」が揶揄では無く称賛にしか読めない素晴らしいアルバムに仕上がっている。
1983年発表のアルバム「The Crackdown」前後からそのファンク・バンドたるダンサブルでファンキーな音作りをし始めた彼らの到達点がこのアルバムで聴ける。前作で魅せたダヴをより推し進め、歪んだマシンガンのようなデジタル・ビートが印象的。それに加えて旧来のヒンヤリとしたビート感やインダストリアルも健在でインダストリアル・ダヴ、インダストリアル・エレクトロ・ファンクと呼びたくなるような音が満載。また全体的に漂うトロピカルなメロディも南国を思わせてこの夏という時期に合う。あと、途中からズタズタになっていくのはUKダヴの総本山ON-Uの総帥エイドリアン・シャーウッドの影響だろうか。圧倒的な音像を魅せてくれる。
続くエイドリアン・シャーウッドがPかつミックスのアルバム「CODE」と並んでEBM期キャブスの最高傑作だろう。リヴォルティング・コックス好きは買って損無!くそお薦め。

Muslimgauze - Zilver / Feel The Hiss

Feel the Hiss

Feel the Hiss

英国出身のアーティストによる何枚目になってるのか解らないアルバム。というか1995年制作のカセットデモテープをCDアルバム化したものだそう。限定500枚。
そんな訳でデモ音源だそうだが、そんなことを全く感じない音源に仕上がってて、驚き(このエントリを起こすために調べた時に初めて知った!)。
このアルバムを端的に表すと、ディープ・アラビック・ハウス……と呼べばいいのだろうか。ディープ・ハウス及びアンビエント・ハウスの祖ラリー・ハードが1980年代のトライバルなムスリムガーゼをリミックスしたらこうなるかもって趣。ヤバいっす。
まるでアラブ音楽とシカゴ・ハウス、デトロイト・テクノが直結してしまったような音楽で聴きこめば聴き込むほどに味わい深いアルバム。改めてこのアーティストの引き出しの多さに驚かされますね。ちなみにこのアルバムは2015年に出されたCDで、彼の死後から16年も経っている。その16年間の間にも定期的に再発、未発表曲のリリースが続いており、その16年目に本エントリのデモ音源のみで構成されたアルバムが出て、このハイクォリティぶり!このことはまだまだこれからも彼の音源は発掘され続けることは明らかなフラグだろう。恐ろしい。饅頭怖いって感じだ。
ディープにしてシンプルッッ!!シンプルにしてディープッッッ!!!ちょう傑作!買え!以上!

Dakar & Grinser - Are You Really Satisfied Now

Are You Really Satisfied

Are You Really Satisfied

ドイツのエレクトロ系デュオの1st。
ジャケットの黒ずくめの服に漢(おとこ)二人という図はDAFとかニッツアー・エブ……つまるところの「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」を想像するのには難くない。
しかしながらエレボ一直線的な音では無く、ハウスが混じった様な感じ。1990年代前半のネオン・ジャッジメントっぽいと言えばその筋には通じるかもしれない。
話は少し変わるが、このアルバムを出している「ディスコB」というレーベルはドイツらしい硬質でハードなトランス、ハードテクノを出していたレーベルだがパトリック・パルシンガー、マイク・インクといった曲者アーティストの音源も出していて、巷に溢れていたジャーマン・トランスやテクノレーベルとは一線を画していた。またDAFのドラマーであったロバート・ゲールもこの「ディスコB」から音源を発表している。この二人組もその曲者だろう。
このアルバムが発表されたのは1999年。1990年代半ばから勃興し台頭していたハードミニマルもこの辺りから陰りを見せ、「エレクトロ・リバイバル」という1980年代のニューウェイヴやエレクトロが見直され始めてきた頃。特にドイツはいち早くエレクトロ目を付けていた国だった。その流れから、このようなアルバムが産まれたのだろうが、曲者二人が選んだのはEBMだった。
EBMもこの辺りから見直されて来た感があった。リッチー・ホゥティンがMixCD「Decks, EFX & 909」でニッツアー・エブを使ったり、ジゴロからテレンス・フィクスマーが出てきた。これは重要な事件だったと思う。リッチー・ホゥティンは当時、前述したハードミニマルを作りかつDJセットに組み込むアーティストだったからだ。リッチーのような世界的なDJがEBMをセットに入れてしまうことはシーンに相当な影響を与えただろう。しかもそのEBMハードミニマルとばっちり合うジャンルだったことも大きい。後にライバッハがアルバム「WAT」でスロベニア出身で同じくハードミニマルなテクノやエレクトロを作っていたUmekを起用したのはリッチーの影響だと見ても、案外間違ってないと思う。そしてUmekの2nd「Neuro」はジャンル的にはエレクトロだが、ニッツアー・エブを思わせる様な曲やスキニー・パピーを感じるダークで殺伐としたインダストリアル・エレクトロが満載の傑作だった。
後のDAFのコピーバンドかと間違えるようなオールドスクールEBM勢とは違い、DAFがアシッド・ハウスを奏でているような奇妙なアルバムだが、EBMリバイバル黎明期の重要な盤として挙げてもおかしくないだろう。

NON - Easy Listening For Iron Youth: The Best Of NON

Easy Listening For Iron Youth: The Best of Non

Easy Listening For Iron Youth: The Best of Non

アメリカのインダストリアル系アーティストの1975年から1991年までの厳選した音源を収録した所謂「ベスト盤」。
このアーティストは冒頭に書いた通り、古くから活動するアーティストの一人。キャバレー・ヴォルテールやスロッビング・グリセルなんかと同じ時期から活動し始めているのではないかと思う。近年ではヴァチカン・シャドウなんかとコラボをしていて、未だに現役のよう。
まぁでもこのアーティストは検索なんかしたりすると割と問題というか……。ライバッハと同じくパロディだと思うのだけど(あって欲しい)全体主義、ナチズム、オカルトなどのヴィジュアルやコンセプトを打ち出したものが多い。オカルトはまぁ良いのだけど、前者の全体主義やナチズムはウルトラ大問題!ライヴもライバッハと同じく(問題のあるデザインの)軍服姿だとか……。
でもそんなことは置いといて(自分もその辺りには詳しくないし)、音だけを聴くと、あら不思議、良いじゃないですか!ライバッハはビート系……つまりEBMなのだけど、このアーティストはダークアンビエントにも似たゴシックで不穏かつ重苦しいリフを多用してくる。かつそのリフをループさせたりしてくる曲がマジで素晴らしい。パワエレなハーシュ・ノイズ曲も良いけど。クレジットを読んだら、「六月死」ことデス・イン・ジューンのダクラス・ピアードや元デス・イン・ジューン、ソル・インヴィクタスのトニー・ウェイクフォード、果てはコイルの二人、MUTEの長ことダニエル・ミラーまで参加してるようで、このレベルの高い不穏さと高品質ぶりに納得が出来た。
個人的な認識として今までヴィジュアルとコンセプト重視の頭でっかちなアーティストだと思ってたけど、音楽的にもこんなに面白いものを作る人だったとは思わなんだ。ノイズ・インダストリアルに対して「ピーピー・ガーガー鳴ってるだけでしょ」と思っている向きには是非とも一聴して欲しい悪夢的な音楽。