KMFDM - Hell Yeah

Hell Yeah

Hell Yeah

ドイツのインダストリアル・メタル系バンドのもう何枚目になってるのか数えたくないアルバム。
アメリカのEBM、インダストリアル・メタル系のレーベル「メトロポリス」からドイツの「Ear Music」というロック、メタル系のレーベルに移した模様。日本のBabymetalも居た模様。
しかし、レーベルが変わろうともあのKMFDMサウンドは健在。しかも今作はブロステップ、果ては初期の頃のようなダヴまで演っているという超意欲作!
ここ10年あまりはシンセベースがブンブン疾走していく「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」ノリだったが、ここに来てダヴ……。それも只のダヴじゃなくてミニストリーの近作にも聴かれたような、スラッシュ・メタルなダヴ。沈み込むようにザクザクと斬っていくスラッシュ・ギターが心地よい。
彼らの座右の銘である「ウルトラ・ヘヴィ・ビート」がEBM及びインメタ由来のそれとダヴが結びつくことにより、より増し増しなものへと深化。まだまだKMFDMは健在!買え!以上!

Laibach - Krst Pod Triglavom - Baptism

Krstpod Triglavom - Baptism

Krstpod Triglavom - Baptism

ユーゴスラヴィアのインダストリアル系グループのアルバムのタイトルにもなっている「Krst Pod Triglavom - Baptism」というオペラ(演劇かも?)のサウンドトラック。
ライバッハにオペラの劇半を頼む……これほどの適役もおるまい。振り下ろされる、叩きだされるハンマービート及びメタル・パーカッションの上を荘厳なメロディが流れ、それをバックにして激情的に歌い上げるヴォーカル……。……いつも通りのライバッハだ。
元々がそういうスタイルだったため、今の今までこれがオペラの劇半だとは気が付かなかった。しかし、これほどまでにそれが合ってしまうグループはこの手のジャンルでは中々見つからないだろう。またこのことから彼らのMVがオペラ風だったりするのにも気が付いた。もしかして彼らのルーツはオペラにあるのかもしれない。そして、それをDAF由来のエレクトロニック・ボディ・ミュージックと混ぜた……。このライバッハというグループはそうとしか見えなくなってしまった。
全くいつも通りのライバッハのアルバム(アルバム「Opus Dei」からの曲も幾つか入っている)。なので彼らの音が好きな向きで持ってない人は買い!でしょう。短い紹介文になってしまったが以上!

V.A. - The Sound Of Belgium Vol. 2

Sound of Belgium Vol.2

Sound of Belgium Vol.2

このコンピレーションアルバム4枚組は所謂「ベルジャン・ニュービート」と呼ばれていたものが殆どを占めている。やっとこういったジャンルの見直しも始まったということだろう。
元々ベルギーは1970年代後半からテレックスというエレクトロ・ポップグループが居て、同時期に世界各国から出てきた同じようなバンドやグループともにシーンは栄えていたよう。しかし、その後、この手のジャンルが衰退していって生音指向に戻って行った。
が、ベルギー(とその周辺国)だけはエレクトロニックに拘った音を量産し続けていた。代表的なグループを挙げるとするならフロント242だろう。クラフトワークDAFに影響されたフルエレクトロニックな音楽は当時、時代錯誤とされ日本のある中古盤屋ではフロント242のシングルが投げ売りされていたそうだ。
しかし、愚直にも長く続けていれば日の目を見るのだろうか。1980年代後半にもなるとアメリカのシカゴやニューヨークを端としたハウス、アシッド・ハウスが欧州で猛威を振るい始め、同時に「エレクトロニック・ボディ・ミュージック(以下EBM)」も猛威を振るい始めた。
そして、ベルギーにはその猛威を更に猛威とさせることが出来る土壌があった。そうフロント242(彼らはそのEBMというジャンル名の提唱者でもある)を始めとするEBM勢だ。1980年代半ば前後には見向きもされなかった音が表舞台に舞い降り、そして雨後の竹の子のようにレーベルが増えた。しかもその雨後に産まれたレーベルはフロント242を始めとするEBM勢よりもダンサブルでダンスフロア向けを中心とした音だった。それは猛威を振るっていたアシッド・ハウスの影響だろう。EBMをベースによりドラッギーでよりトランシーな音作りをしていた。そしてそれこそが「ニュービート」と成る。
周辺国もそれに乗り、特にドイツのエレクトロニック・ダンス系のレーベルはその殆どが「ニュービート」レーベルだった。ケン・イシイを輩出したR&Sが有名だろう。R&Sは当時ベルギーに多くあったそれと同じであったが、1990年、同レーベルから出たジョーイ・ベルトラムの「Beltram Vol.1」はニュービートをハードコア・テクノに発展させた。その後もベルトラムは「音の暴力」としか形容出来ない音を量産していく。特にオランダのハードコア、ガバの雄ポール・エルスタックとのユニット「Hard Attack」は極限までその暴力性を高めた傑作だろう。また同レーベルのCJボーランドといったアーティスト達がニュービートをトランスへと発展させてもいく。
このコンピは今まで書いてきた、ニュービート黎明期からハードコア移行期、移行後、トランス前夜までの道のりを聴くことが出来る。でも一枚目はテレックスなどのニューウェイヴものも収録されているのでニュービート前夜まで聴くことが出来てしまう。
今までこの手の音聴きたければ、ブックオフなどで「テクノ」や「アシッド」という題名の付いた1980年代後半のものを発掘する、ないし動画共有サイトなどのネットでしか聴くことが出来なかった。しかし、このようなコンピが新たな形でまとめられたのは快挙だろう。興味を持たれた向きは一聴してみては如何。

Muslimgauze - Azzazin

Azzazin

Azzazin

英国のアーティストによる1996年発表のアルバム。自分が持ってるのは2004年に(2ndエディションとして)再発された盤の模様。
このアーティストといえば中東……アラビックな音像を魅せてくれるので有名。しかし、このアルバムはそれが無。またこのアルバムの不穏さと不可解さはなんなのだろう。
アルバムの殆どの曲がビーとかブーとかチリチリとかのブリープ音やグリッチ音で構成されている。当時、出始めていたオヴァルなんかのIDM系の音を取り入れたのかもしれないが、それにしてはベースがビリビリ(not御坂美琴)効いていて、どちらかと言えば後のダヴステップに近い。それもヒップホップ寄りのダヴステップじゃなくて、スコーンとかザ・ハクサン・クロークに近い。ダークでヘヴィ・インダストリアルなダヴステップだ。そして、そこへ不穏なアラブ・サンプリングが時折入って来て、よりアシッドかつダークな音像を増し増しにしてくるのがなによりも恐ろしい。
このアーティストの特徴であるアラブ音楽は希薄だが、不穏さと不気味ぶりはどのアルバムよりも濃い。アルバムタイトルが「アサシン」とはうまくいったもの。ザ・ハクサン・クローク、レーベル「Blackest Ever Black」を予見したかのような音は圧巻。二十年経った今こそ多くの人間に聴かれ、絶賛されるべきアルバムだと思う。真のオーパーツが此処に……。ちょうお薦め。

Tim Hecker - Ravedeath,1972

Ravedeath 1972

Ravedeath 1972

アメリカのIDM系アーティストの7th。
このブログで2013年発表の「Virgins」を紹介して、1980年代のアンビエントなインダストリアルとの相関関係を書いてみたが、このアルバムは正にそれだ。
先ずジャケットの大学の屋上と思しき場所からピアノを落している古い写真(アルバムタイトルにあるように1972年だろう)からクラ二オクラスト的な退廃がビシバシ伝わってくる。
そして、音もそのクラ二オクラストの諸作、コントロールド・ブリーディング、ノクターナル・エミッションズ、コイルのアンビエントを思わすインダストリアル・アンビエント。またデス・イン・ジューン、カレント93、ヴァジリスク、ソビエト・フランスといった所謂「リチュアル・ノイズ」も思い起こすことだろう。
しかし、このアルバムが圧倒的なのは1990年代のワープを代表とするインテリジェント・テクノ(後のIDMエレクトロニカ)も思わせるメロディや展開を持っているとこだろう。初期オウテカ、B12、そしてAFXの「アンビエント・ワークス」といった音源が浮かぶ。このアシッド・ハウスを端とするレイヴやトランスを通過したインテリジェント・テクノはトランスの酩酊感や陶酔感をそのままにビートだけを削除したような音でブライアン・イーノが提唱するアンビエント「家具の様な音楽」とは全く異なっていた。
タイトルの「Ravedeath」にあるように狂騒の終わりを表わしたインテリジェント・テクノと退廃的な「リチュアル・ノイズ」が交差した恐るべきアルバム。KTLなんかのドローン系のブラック・メタルが好きな向きにもお薦めしたい一枚。

Thomas Leer - 1979

1979

1979

スコットランドのアーティストによる1979年録音のアルバム。今年になって出たようです。
この人はロバート・レンタルとあのスロビッング・グリセル主宰のレーベル「インダストリアル・レコーズ」からアルバムを出してたりする人だったりするのだが、自分は聴いてなかったり。というかこのアルバムで初めてトーマス・リアーの音に触れた。
しかし、聴いてみるとそのインダストリアルさはあんまり無くて、スーサイドやジャーマン・ニューウェイヴっぽいといいますか。ジョイ・ディヴィジョンの残った面子がイタロ・ディスコやハイエナジーじゃなくてクラスターとかタンジェリン・ドリーム、アシュラなんかのジャーマン・プログレにハマってニュー・オーダーを結成したらこうなるかも……って趣。享楽の方向性がアシッドに向かっているといいますか……。初期のキャバレー・ヴォルテールからノイズを抜いたような感じとも聴ける。
ダークな部分はポジティヴ・パンクっぽいのだけど、エレクトロニクスの使い方はスーサイドやアタタックの連中みたくカオスでアシッド。デア・プランのメンバー、ピロレーターの初期ソロ作品に近い感じ。
ジョイ・ディヴィジョンと初期ピロレーターが交差するとき……。お薦め。

Cabaret Voltaire - The Covenant, The Sword And The Arm Of The Lord

イギリスのインダストリアル系バンドの7th。
暑い……。暑苦しいジャケにこれまた暑苦しい音のエレボやインメタなんぞ聴いてられるか!とアンビエントや涼しげなIDMを聴いている今日この頃。
だがこのキャブスはこの時期にも聴ける!というかこの時期こそ聴くべきアルバムが本エントリで紹介したい一枚。
スロビッング・グリセルと共に「インダストリアル・ミュージック」の基礎を作り上げたこのキャブスも1980年代に入ると、ダンスよりのダンサブルな音を奏でるようになり、旧来のノイズ・インダストリアル勢……というよりもよりハードコアになったパワー・エレクトロニクス勢に裏切り者扱いされて、特にホワイトハウスのウィリアム・ベネットが自身の発行する同人誌で「ラフトレードのTGやキャブスはもう一つのファンク・バンドまでに甘くなってしまった。TGのアルバムに関して我々は彼らのアートに見るべきパロディを感じない。しかし、ヒューマン・リーグよりはずっとましだ……。」とキャブスのライブアルバムのレビューを書いていた位だ。しかし、そのベネットが揶揄する「もう一つのファンク・バンド」が揶揄では無く称賛にしか読めない素晴らしいアルバムに仕上がっている。
1983年発表のアルバム「The Crackdown」前後からそのファンク・バンドたるダンサブルでファンキーな音作りをし始めた彼らの到達点がこのアルバムで聴ける。前作で魅せたダヴをより推し進め、歪んだマシンガンのようなデジタル・ビートが印象的。それに加えて旧来のヒンヤリとしたビート感やインダストリアルも健在でインダストリアル・ダヴ、インダストリアル・エレクトロ・ファンクと呼びたくなるような音が満載。また全体的に漂うトロピカルなメロディも南国を思わせてこの夏という時期に合う。あと、途中からズタズタになっていくのはUKダヴの総本山ON-Uの総帥エイドリアン・シャーウッドの影響だろうか。圧倒的な音像を魅せてくれる。
続くエイドリアン・シャーウッドがPかつミックスのアルバム「CODE」と並んでEBM期キャブスの最高傑作だろう。リヴォルティング・コックス好きは買って損無!くそお薦め。